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2022年公開の映画『ラーゲリより愛を込めて』
映画『ラーゲリより愛を込めて』は、辺見じゅんによるノンフィクション『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(1989) にオリジナルのフィクション要素を交えて映画化した作品。瀬々敬久監督、林民夫による脚本で製作され、主演を嵐の二宮和也が務めたことでも話題になった。
『ラーゲリより愛を込めて』では、終戦時に満州からソ連の収容所へ送られた山本幡男の物語が描かれる。今回は、そのラストを中心にネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容はネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
ネタバレ注意 以下の内容は、映画『ラーゲリより愛を込めて』の内容に関するネタバレを含みます。- 映画『ラーゲリより愛を込めて』ネタバレ解説
- 「ラーゲリ」と「ダモイ」の意味は?
- 山本が変えた松田、相沢、新谷、原
- ストライキと山本の病気
- クロの話は実話だった?
- ラストの意味は?
映画『ラーゲリより愛を込めて』の舞台になるのは、第二次世界大戦が日本の敗戦という形で終わりを迎える1945年からラストの2022年まで。二宮和也演じる主人公の山本幡男は、満州国で南満州鉄道の調査員として働いていたが、終戦を迎えてソ連軍の捕虜になり、日本に戻った妻と子どもとは離れ離れになってしまう。
満州国は1932年に日本軍が満州を占領して樹立した国で、事実上日本の植民地だった。日本の敗戦後は一時的にソ連の占領下となり、1949年には中華人民共和国の領土となっている。
旧満州は満州国時代のインフラ整備が整っていたためその後も一定の豊かさを享受したという言説がある。しかし、中国が経済大国となっていき他地域のインフラが発展していく中で、旧満州の地域には満州国のインフラが残っていたため結果的には開発が立ち遅れた地域になってしまった。
映画『ラーゲリより愛を込めて』に登場した人物の中で、実在した人物は主人公の山本、その妻のモジミ、そしてその子ども達だ。北川景子演じるモジミは、日本で再び会うという夫との約束を信じて、戦後の日本で子ども達を育てながら懸命に生きている。
映画『ラーゲリより愛を込めて』でキーワードになるのは、「ラーゲリ」と「ダモイ」という二つのロシア語。ラーゲリは「収容所」という意味で、ソ連のラーゲリでは収容者を過酷な労働に従事させ、思想矯正が行われていた。ダモイは「家へ」という意味で、ラーゲリの抑留者の間では「帰国」の意味で使われていた。
『ラーゲリより愛を込めて』では、山本ははじめ、ハバロフスクのラーゲリへ送られ、次にシベリアのラーゲリに送られることになる。そこで山本と出会った抑留者たちは、山本の影響を受けて徐々に変化していくことになる。なお、『ラーゲリより愛を込めて』に登場するのは日本人捕虜のみだが、ソ連のラーゲリにはドイツやイタリア、バルト三国などからも多くの外国人の収容が行われた。
山本が変えた松田、相沢、新谷、原『ラーゲリより愛を込めて』の主要人物は、山本家を除いてほとんどが架空の人物となっている。松坂桃李が演じた松田研三は戦場で仲間を見捨てて逃げようとした過去を持っており、自身を「卑怯者」と蔑んでいる。珍しく卑屈な人物の演じた松坂桃李の演技が光る。
桐谷健太が演じた相沢光男は、戦時中の階級にこだわり山本や松田を見下している。だがその背景には、少年兵の時に上官から捕虜を処刑する命令を受けて実行した過去があった。この時相沢は人間であることを捨て、「戦場では人間を捨てろ」という精神を他人にも求めるようになったのである。
日本の戦争映画は、敗戦した日本の“被害”の側面が描かれることが多い。『ラーゲリより愛を込めて』の相沢の過去に関するストーリーは、日本軍による他国の人々への加害を描いた重要なシーンである。
相沢は、戦争が終わり人間に戻れば、自分がやったことの重責に耐えきれないということを心のどこかで分かっているのかもしれない。人間であることをやめて加害者となった自分を肯定するために、戦争が終わっても軍人であることを辞めようとしないのである。
相沢は日本に妊娠した妻を残してきていたが、その妻は空爆で亡くなっていたことを知る。自暴自棄になる相沢だったが、山本からそれでも生きるよう説得され、ダモイの日を待ち続けることになる。
中島健人演じる“しんちゃん”こと新谷健雄は、軍人ではなかったが漁をしていたところ捕虜となった。不幸な青年だが悲壮感はなく、むしろ学校に行っていなかったからと山本に読み書きや俳句を教わるようになる。犬のクロを世話したり、他の抑留者に俳句を教えたりする場面もあり、心優しい人物であることが分かる。
安田顕演じる原幸彦は、山本の同郷の先輩で、山本にロシア文学を教えた元上司でもある。山本がハバロフスクからシベリアに送られた理由は、原が保身のために山本の情報をソ連に売ったからだった。
ラーゲリで受ける暴力と同胞を売り渡した自己嫌悪によって茫然自失となっていたが、山本がボールを作ってラーゲリ内に野球をもたらしたことから変化を見せ始める。原は慶應大学で4番を打っていた六大学野球のスターだったのだ。
野球は一時ソ連兵によって中止させられるが、原はその後「労働効率が上がるから」という理由で野球をやる許可を得る。言いなりになっていた原が、環境を良くするためにソ連と交渉するようになったのだ。
これらの人物は、ラーゲリの中にあっても、歌を唄い、人を助け、人間らしく生きようとする山本の影響を受けて変化を見せていった。原は「生きるのをやめないでください」と、相沢は「それでも生きよう」「そこには絶対に希望がある」と説得され、人間性を取り戻していく。
山本以外の収容者は架空のキャラクターだが、戦争の加害者であり、仲間を売った者であり、戦場で逃亡した者であり、様々な過去を抱えていた抑留者達を凝縮した姿となっている。そんな中で山本は歌い、人間であることをやめない。終戦から2年経ち、1947年にダモイの途中でハバロフスクの収容所に連れて行かれ、スパイ活動の重罪で25年の労働を言い渡され、1950年には朝鮮戦争が始まって日本人捕虜の引き揚げが打ち切りとなり……苦難の中にあっても周囲の他者に人間として接していた。
山本が歌うのは、1946年に公開された米国の映画『荒野の決闘』の主題歌「いとしのクレメンタイン」だ。山師の娘クレメンタインに捧げられた歌で、「愛しい人、愛しい人よ、君はもういない、もう戻らない」と歌われている。
『ラーゲリより愛を込めて』ラスト ネタバレ解説 ストライキと山本の病気『ラーゲリより愛を込めて』の後半では、山本幡男は病気を患って倒れてしまう。1954年、終戦から9年が経った時のことだった。山本は十分な治療を受けられずラーゲリで衰弱していくが、そこで立ち上がったのは松田だった。
松田もまた手紙を通して母の死を知り絶望感を抱えていたが、それでも山本のように他者のために立ち上がる。山本を大きな病院で診てもらうためにストライキを始めるのだ。「ただ生きてるだけじゃダメなんだ。山本さんのように生きるんだ」「一等兵じゃない、俺は松田健三だ」という本作屈指の名言も飛び出す。
母を失った松田に妻を失った相沢、そして原も山本のために戦い、「我々は家畜じゃない、人間だ」と主張するのだ。「ここは戦場だ、人間を捨てろ」というかつての相沢の言葉と真逆を行く主張だ。一同は「いとしのクレメンタイン」を歌い、要求を勝ち取ったのだった。
しかし山本は病院から帰ってきた後、喉の癌が発覚し余命がわずかであることを明かす。絶望する山本だったが、相沢は「それでも生きろ」と自分が言われたことを言い返し、山本の世話をしてやる。ここで相沢は初めて「一等兵」ではなく、「山本」と名前を呼んだのだった。
一同は決心し、山本に遺書を書かせることに。みるみる弱っていく山本は「戦争って酷いもんですよね」と漏らす。ラーゲリでのソ連兵の苛烈さに目が行きがちだが、そもそも戦争に突き進んでいった日本という国の罪を思い出させる言葉だ。
山本は遺書を書いて二週間後に逝去、シベリアに埋められたのだった。なお、シベリアの日本人墓地には今でも多くの遺骨が残されているという。
クロの話は実話だった?1956年、終戦から11年。日本とソ連の国交が回復して残されていた抑留者達のダモイ=帰国が実現する。山本の墓についていたクロが船に追いつくシーンは『ラーゲリより愛を込めて』のハイライトの一つだが、実はこの出来事は実話だという。
史実においてもクロはハバロフスク収容所の日本人抑留者達が野外の作業所に捨てられていたところを拾われ、抑留者達の癒しとなった。ラーゲリで行われる野球大会は、クロが球拾いをしてくれることから「クロ野球」と名付けられたという。
5km離れた収容所から船を追いかけてきたクロが氷の海に飛び込んだというのも本当の出来事で、帰還船の船長・玉有が船を停め、クロが拾い上げられる時の写真や、クロが日本に帰ってきた時の写真も残っている。朝日新聞の記事によると、舞鶴から日本にやってきたクロは地元の人に引き取られ、子どもも産んだという。
ラストの意味は?山本の妻モジミは、幡男との日本で会うという約束が果たされず泣き崩れる。だが、そのモジミの涙が報われる日が来る。終戦から12年が経過した1957年、原が訪ねてきて「記憶した」という山本の遺書をモジミに届けるのだ。
山本が書いた遺書はソ連兵に没収されていたが、原、松田、しんちゃん、相沢が没収されるまでに遺書の内容を記憶していた。この策を言い出したのはしんちゃんで、山本から言われた「頭の中で考えたことは誰にも奪うことはできない」という言葉を実行に移した結果だった。この考えは、奇しくも第二次世界大戦においては被害者の立場だったユダヤ人達の「知識は誰にも奪われない財産である」という考えと一致する。
原が記憶していた「幸福に暮らしてください」は山本からの最大の願いだ。次に母を失った松田から、親不孝を謝り、母に会って死にたかったという山本の母への遺言が伝えられる。子ども達への言葉を伝えたのは、山本から読み書きを教えてもらったしんちゃんだ。
そして、最後にモジミの前に現れたのは相沢だった。山本の遺言の最後のパートは、「妻よ、よくやった」から始まるモジミへの言葉だった。働きながら一人で子どもを育てた10年間を労う言葉。感謝と奮闘を讃える言葉を伝えたかったという号泣必至の遺言だ。
それを山本の妻に届けたのは、妻を失った相沢なのだからこれまた泣ける。そして、最後の遺書を読んだモジミは山本幡男の姿を見る。仲間達が暗記して届けた遺言を通して、山本幡男は“ダモイ”を果たしたのだった。
映画『ラーゲリより愛を込めて』のラストシーンは、それから65年が経過した2022年。本作の冒頭は満州国での結婚式のシーンだったが、ラストは山本のひ孫の結婚式のシーンだ。幡男の息子で長男の顕一(演・寺尾聰)は、父の生き方を引き継ぎ、その想いを孫に伝えたいと語り、「今日という日を、よーく覚えておくんだよ」と、孫娘に伝えている。
映画『ラーゲリより愛を込めて』ネタバレ感想&考察映画『ラーゲリより愛を込めて』は、山本幡男の遺書がシベリアから仲間達の暗記によって妻に伝えられたという実話をベースに、創作の仲間達にも魅力的な俳優を起用してそれぞれの背景を付与することによって、物語としても面白い作品に仕上がっていた。
ラストシーンについては、現代の日本が享受している平和と満州国で享受されていた平和を重ね合わせていることには違和感があった。後者では、その幸せの裏で多くの血が流れていたからだ。それを除けば、相沢の過去を通して日本軍の加害者としての側面も描かれており、戦争映画としても比較的真摯な映画だったように思う。
原作のノンフィクション『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』は、角川書店と読売新聞社が共同で「昭和の遺書」を募集した際に山本モジミが幡男の遺書を投稿したことがきっかけで生まれたという。編集を担当していた辺見じゅんがその投稿を元に調査を進め、文章として発表したものが書籍化されたのだ。
¥680 (2026/04/01 19:39:16時点 Amazon調べ- 詳細)そして、『ラーゲリより愛を込めて』のタイトルで映画化され、本作は興行収入26.7億円という大ヒットを記録。二宮和也がその人柄を見事に演じ、山本幡男の生き方は改めて世間に広く知られることになった。
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