孤独のクラシック ~私のおすすめ~
クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)
トップ > オペラ > 童謡〝むすんでひらいて〟の原曲とは。『ルソー:村の占い師』~ベルばら音楽(40)童謡〝むすんでひらいて〟の原曲とは。『ルソー:村の占い師』~ベルばら音楽(40)
論争の世紀数々の大作曲家を輩出した18世紀ヨーロッパは、啓蒙思想の時代と呼ばれます。
これまで触れてきましたが、ラモーは音楽の不思議を科学的に解明しようとしました。
音楽の分野で歴史に残る論争は、1750年代の「ブフォン論争」と1770年代の「グルック=ピッチンニ論争」です。
元祖エンサイクロペディアフランス啓蒙主義のリーダーとなったのは、世界初の百科事典といわれる「百科全書 L'Encyclopédie」を企画、出版した「百科全書派」と呼ばれる人たちで、ディドロ(1713-1784)、ダランベール(1717-1783)らがその中心人物です。
そこで代わりにその項目を執筆することになったのが、「社会契約論」「人間不平等起源論」などの著作で、後のアメリカ独立革命、フランス革命の理論的支柱となったジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)です。
音楽家になりたかったルソー イタリア・オペラのフランス上陸折しも1752年、イタリアのバンビーニ劇団がパリ・オペラ座で、若くして亡くなったイタリアの作曲家ペルゴレージのオペラ・ブッファ『奥様女中』(まんまと奥方になったメイド)を上演し、大ヒットとなりました。
このオペラは正式なオペラ・セリア(正歌劇)の幕間に余興として上演された幕間劇(インテルメッツォ)ですが、これだけが大人気となり、この作品があまりに面白いために、オペラ・ブッファはオペラ・セリアと並ぶジャンルに成長するのです。
「ブフォン論争」勃発ルソーの思想を表わすとされる言葉〝自然に帰れ〟を体現しているのがイタリア音楽であり、王の権威を示すのが目的のフランス音楽は、全くこれに反している、というわけです。
フランス音楽支持者は「国王方」、イタリア音楽支持者は「王妃方」となって争ったのです。
ルソーは、音楽で大事なのはメロディであり、ラモーがこだわっているハーモニーは味付けに過ぎない、と攻撃します。
ルソーが作曲した『むすんでひらいて』ルソーは、『奥様女中』がパリで上演される数ヵ月前、自作のオペラ『村の占い師』をオペラ座で上演しました。
村娘コレットは、恋人コランが自分に冷たくなったと悩み、村の占い師に相談します。
これを気に入ってしまったのが、なんと国王ルイ15世で、ルソーに会いたい、そして年金を与えたい、と言い出します。
手に百科全書を持った肖像画が書かれ、ラモーびいきだった愛妾ポンパドゥール夫人とは、知的レベル、関心がまるで違ったのがこのエピソードでも分かります。
その親しみやすさから、一部は日本の童謡『むすんでひらいて』の原曲になったり、ベートーヴェンが民俗曲集に編曲したりしています。
ジャン=ジャック・ルソー『村の占い師』Jean-Jacques Rousseau:Le Devin du village
Andreas Reize & Cantus Firmus Consort
序曲 コレットのエール『幸せをなくしてしまった』コレット
幸せをすっかりなくしてしまった
私の大切な人を失ってしまった
コランは私を捨てたの
ああ!彼があんなに変わってしまうなんて!
もうそのことは考えたくない
なのにそのことが頭から離れない
占い師のエール『愛は不安になれば強まる』占い師
愛は不安になれば強まり
満たされると眠り込んでしまうもの
少しは移り気な羊飼い娘の方が
羊飼いをもっとしっかりつなぎとめるものだよ
コランのエール『いや、コレットは裏切らない』コラン
いや、コレットは裏切らない
ぼくに誠意を約束したんだ
彼女がぼく以外の男を
好きになることなんかあるわけない
彼女を信じる、というこの歌は、ベートーヴェンが1817年に各国の民謡を集めた歌集『6つの各国の歌』WoO.158c に編曲、所収していますので、それだけ〝フランス民謡〟として親しまれていたことが分かります。
ベートーヴェンの曲はこちらです。
コランとコレットのデュエット『永久に私、コランは誓う』二重唱
永久に私(あなた)、コランは君(私)に誓う
ぼく(彼)の心と貞節を
甘美な結婚が
ぼく(私)と君(あなた)を結びつけますように
つねに一途に愛そう
愛が私たちの掟になりますように
永遠に
村人たちはパントマイムで寸劇を演じますが、その音楽が、形をやや変えて童謡の『むすんでひらいて』になっていきました。
明治日本に伝わってからも、様々な歌詞で、唱歌になったり軍歌になったりしたのですが、戦後、1947年に小学校1年生の教科書に載ったのが『むすんでひらいて』だということです。
パントマイム(むすんでひらいての原曲) コレット『楡の木陰で』コレット
楡の木陰で、さあ踊りましょう
元気を出して、若い娘たち
楡の木陰で、さあ踊りましょう
男たち、笛を取りなさい
たくさん歌を唄いましょう
心が陽気になるように
恋人と踊りましょう
ひとりでいてはだめよ
町の方がにぎやかだけど
馬鹿騒ぎがそんなに楽しいかしら?
いつも満足して、いつも歌って
自然な楽しみ、飾らない美しさ
町のコンサートが村のミュゼットにかなうかしら?
楡の木陰で、さあ踊りましょう
ラモーの最晩年チュイルリー公園をひとり、思索にふけって散歩するラモーは幽霊のようで、老いて狂ってしまった、と噂されました。
しかし、最後のオペラ『ボレアード』は実に力強い音楽で満ちているのです。
ラモーに関する著作も日本にはほとんどないのですが、村山則子氏が2018年に上梓した『ラモー 芸術家にして哲学者』は貴重なラモー論です。
- 作者: 村山則子
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