. 2日前”(神立 尚紀) | 現代ビジネス | 講談社
2日前”(神立 尚紀) | 現代ビジネス | 講談社
2日前”(神立 尚紀) | 現代ビジネス | 講談社

【戦争秘話】「同調圧力」で志願させられた…「神風特別攻撃隊」初出撃の“2日前”

〈玉井副長の脳裡には、大西長官が体当り攻撃を口に出した時から、既に「九期飛行練習生の搭乗員から選ぼう」という考えが浮んでいた。九期飛行練習生と玉井副長との間には、前々から切つても切れない縁があつたからである。(中略)マリアナ戦の時から共に苦闘してきた玉井中佐は自然、彼等に対して親が子を思う、「可愛くて可愛くてたまらない」という様な深い愛情を持つていて、何とかしてよい機会を見付け、彼等を立派なお役に立たせたいと考えていたし、彼等の方でも、玉井中佐には親に対するような心情を持ち、機に応じ折に触れてはその熱情を披瀝していたのであつた。(中略)

そこで玉井副長は、隊長と相談して、この九期練習生の集合を命じたのである。玉井副長はその時の感激を次のように述べている。

「集合を命じて、戦局と長官の決心を説明したところ、喜びの感激に興奮して、全員双手を挙げての賛成である。彼等は若い。彼等はその心の総てを私の前では云い得なかつた様子であるが、小さなランプ一つの従兵室で、キラキラと眼を光らして立派な決意を示していた顔付は、今でも私の眼底に残つて忘れられない。その時集合した搭乗員は二十三名であつたが、マリアナ、パラオ、ヤップと相次ぐ激戦で次から次へと斃(たお)れた戦友の仇討をするのは今だと考えたことだろう。これは若い血潮に燃える彼等に、自然湧き上がつた烈しい決意であつたのである」〉

拒否できない状況での志願

「本日、大西長官が本部に来られた」

「一週間、比島東海岸の制空権を握り、このたびの作戦を成功させることができれば日本は勝つ。そのためにはお前たちの零戦に爆弾を抱いて、敵空母に突っ込んで叩きつぶす必要がある。日本の運命はお前たちの双肩にかかっている」

「いいか、お前たちは突っ込んでくれるか!」

「行くのか、行かんのか!」

「その声に、反射的に総員が手を挙げた」

「志願を募るというなんてことはひと言も出なかった」

体当り攻撃隊の指揮官

「ただいまから特攻編成を通告する」

〈以上のような状況で、体当り搭乗員の主体である列機の方は問題なく決まつたが、次は指揮官を誰にするかである。(中略)この純真無垢な搭乗員を誰に託せばいいか? 玉井副長との間に相談が始まつた。私(注:猪口参謀)は云つた。

「指揮官には海軍兵学校出身のものを選ぼうじやないか」〉

特攻隊の指揮官に選ばれた関行男海軍大尉。このとき23歳だった

関大尉への強制に近い説得

「お呼びですか?」

「関。今日、長官がじきじきに来られたのは、『捷号作戦』を成功させるために、零戦に250キロ爆弾を搭載して敵に体当りをかけたいという計画を諮られるためだったんだ。ついてはこの攻撃隊の指揮官として貴様に白羽の矢を立てたんだが、どうか」

「ぜひ、私にやらせてください」

「ひと晩、考えさせてください」

「どうだろう、君が征ってくれるか」

「承知しました」

「足音は私の傍を通って長官の休んでいる部屋の前で止まりました。ノックする音が聞こえ、『長官、長官』と低い声で呼ぶのは、猪口参謀の声でした。すぐに中から『うむ』という声が聞こえ、猪口参謀は部屋に入っていった。数分で2人は出てきて、階段を下りていきました。しばらく耳を澄ませましたが、長官はなかなか戻ってこない。それで、階下の様子が気になって、私はベッドの脇に置いていた半長靴を履き、上衣をつけると、階下に降りてみました」

「まだ起きていたのか」

「やがて、猪口参謀が、髪をボサボサのオールバックにした痩せ型の一人の士官に、『関大尉はまだチョンガー(独身)だっけ』と声をかけた。『関大尉』と呼ばれた士官は、『いや』と言葉少なに答えただけでしたが、この会話で私は、この人が大西中将の言った『決死隊』の指揮官に決まったことと、この決死隊がただの決死隊ではないことを悟りました」

「そうか、チョンガーじゃなかったか」

大西中将の訓示

「ちょっと失礼します」

「揃いました」

「この体当り攻撃隊を神風(しんぷう)特別攻撃隊と命名し、4隊をそれぞれ敷島、大和、朝日、山櫻とよぶ。日本はまさに危機である。この危機を救いうるものは大臣でも、大将でも軍令部総長でもない。それは、若い君たちのような純真で気力に満ちた人である。みなはもう、命を捨てた神であるから、何の欲望もないであろう。ただ自分の体当りの戦果を知ることができないのが心残りであるに違いない。自分はかならずその戦果を上聞に達する。一億国民に代わって頼む、しっかりやってくれ」

「私は、目の奥がうずくような感動を受けましたが、涙は出ませんでした。甘い感激ではなく感情がもっと行きつくところまで行ってしまったような心境。トラック空襲以来、これまで敵機動部隊攻撃に出撃した攻撃隊がほとんど全機還ってこなかったなどの現実を見てきたから、このときはひどいとも、残酷なことをするとも思いませんでした。最前線にいて、毎日何人かの仲間が戦死してゆく現実に直面していた彼らには、必死必中の体当り攻撃に手を挙げる精神的な下地があったのではないでしょうか」

「そのとき私が思ったのは、大西中将が若ければ、特攻隊の隊長として真っ先に行かれるだろうな、ということ。この場にちぐはぐな違和感が感じられなかったのは、長官が、自分は生き残って特攻隊員だけを死なせる気持ちがなかったからに違いないと思います。その様子をじっと見ているうちに、大西中将と特攻隊員たちは、私にとって別世界の人間になったように思えてきました」

昭和20年4月11日、戦艦「ミズーリ」に突入寸前の零戦

特攻隊の別杯

「では、わしは帰る」

「副官、水は入っているか」

「別杯を終えて長官と車に乗ったのは、もう4時頃でした。夕暮れの道をマニラまで走る2時間あまりの間、大西中将はひと言も口をきかれませんでした」

「おい、特ダネだぞ!」

「しっかり報道願います」

「報道班員、日本もおしまいだよ。ぼくのような優秀なパイロットを殺すなんて。ぼくなら体当りせずとも敵母艦の飛行甲板に五十番(五百キロ爆弾)を命中させる自信がある」

「ぼくは天皇陛下とか、日本帝国のためとかで行くんじゃない。最愛のKA(注:海軍隠語で妻のこと)のために行くんだ。命令とあれば止むをえない。ぼくは彼女を護るために死ぬんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだすばらしいだろう!」

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