なぜ社会人が「芸術大学」を目指すのか?削除されてきた“分からない”がAI時代の武器になる
佐藤:一言で答えるのは難しいですが、やはりアートとは「人間の自発によるもの」だと思います。自分から何かメッセージを伝えたい、表現することで人に感じてもらいたい、あるいはまだ気付いていないものに触れてもらいたい。そうした衝動が自発的に立ち上がるものがアートです。私自身も子どもの頃にはそういう感覚がありましたが、デザインの仕事を始めてからは「間を繋ぐ」という役割になりました。これはどちらかというと「他発」とも言える。環境を理解した上でどう繋げば良いかを考えるのがデザインであり、それはある意味ではビジネスも同じです。ビジネスとは、さまざまな物事を繋いで利益を得ながら社会のために成立させていくものです。
——時代の変化とともに、アートの持つ力や特異性も変化するものなのでしょうか?
佐藤:常に変わると思います。社会変化の流れの中でいつのまにか「既成概念」というものが生まれますが、それに気付かない人も多い。気付ける力が、アートやデザインなど広く芸術の力としてあるように思います。
「分からないもの」が削除されてきた
——佐藤さんは以前から「分からないもの」の価値について語られていますが、今の社会では、常に「分かりやすさ」が求められていると思います。
佐藤:例えば芸術に関しても、これまでの教育は「うまく描けるかどうか」にフォーカスしすぎていたのかもしれません。好きなものは「好き」でいいはずなのに、「太陽はこう描く」といった決まりが、いつの間にか刷り込まれていく。
——AIやテクノロジーが進化する中で、テクノロジーとアート、あるいは人とアートの関係性はどうなっていくと考えていますか。
佐藤:デザインとは「間(あいだ)を適切に繋ぐこと」です。デザイナーとして思うのは、どんなにテクノロジーが進化しても、新しい「間」は必ず生まれる。今まであった「間」が必要なくなり、仕事がなくなることはあっても、世の中が変わればまた新しい「間」ができます。そしてその「間」を繋ぐために、新たなデザインが必要になる。やるべきことはむしろ増えていく。10年、20年後のデザイナーは、私がしてきたこととはまったく違うことをやっているでしょう。
佐藤卓(さとう・たく):1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了。株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現 株式会社TSDO)設立。「ニッカウヰスキー ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」、「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」「全国高等学校野球選手権大会」のシンボルマークデザインなどを手掛ける。また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHT館長を務めるなど多岐にわたって活動。展覧会に、『water』『縄文人展』『デザインの解剖展』『デザインあ展』など。著書に、『塑する思考』(新潮社)、『大量生産品のデザイン論-経済と文化を分けない思考-』(PHP新書)など。
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