ゴルトベルク変奏曲 BWV988 (バッハ)
グスタフ・レオンハルトはバロックの様式を研究し、舞曲も様式を取り入れて演奏したパイオニアです。クラシカル・チェンバロも昔のチェンバロを研究して復元したものや模造したもので、音量は小さめですが、音色が良いことが分かりました。今のチェンバロの演奏家は、レオンハルトの弟子であったり、影響を受けた人が多いです。バロックの様式はさらに研究されており、今はレオンハルトよりも、さらに自然な演奏を聴くことが出来ます。
おすすめの名盤レビュー
バッハ作曲ゴルトベルク変奏曲の名盤をレビューしていきましょう。
バッハの時代は今でいうクラシカル・チェンバロが主流でした。現在はピアノによる演奏も多いです。その中間にあたるモダン・チェンバロという楽器もあり、ちょっと不思議な音色を持っていますが、例えばリヒターなど有名な奏者がこの楽器で録音しています。
クラシカル・チェンバロで、 倍音がとても多く、雅な響きが特徴 です。なので、聴いていてとても癒されます。チェンバロは鳥の羽の軸で金属弦を弾くのですが、細かいタッチでニュアンスをつけています。表現力でいえば、やはり強弱がはっきりつけられるピアノの演奏も視野に入ってきます。グレン・グールドでゴルトベルク変奏曲に開眼した方も多いと思います。
ピアノ:グレン・グールド (1981年) 少しロマンティック、自由で多彩な表現グレン・グールドの1981年の録音です。ゴルドベルク協奏曲を世に知らしめた立役者です。バロックの知識があるかどうか分かりませんが、自由な表現で演奏していて、それが曲によくマッチしています。
クラシカル・チェンバロでの録音が増えた今でもグールドの演奏は魅力を失っていません。 逆にチェンバロで聴いて良さが分からなかった、という人は一度グールドの演奏を聴いてみてください。この曲の良さや聴き所がよく分かり、チェンバロでの演奏も違って聴こえてくると思います。舞曲などで演奏様式が決まっている曲も、自分のセンスで自由に弾いている感じですが、 ピアノの表現力を最大限に活かして、曲による表現の緩急や表情の豊かさは、今でも十分聴きごたえのあるもの です。
チェンバロと違って、倍音の少ないピアノは、音色の面では不利なのですが、 上手く表情をつけて、聴きごたえがある上に、癒される演奏 でもあります。バッハ晩年の作品で、どこか喜びが感じられる曲ですが、そういう所もよく再現されています。
アンドラーシュ・シフ (新盤) シフの円熟した自由で完成度の高い名盤バッハを得意としているアンドラーシュ・シフの新盤です。2001年のライヴ録音です。ライヴとは思えないノイズの少なさで音質も良いです。旧盤はしっかりした演奏でこちらも名盤です。新盤はバッハを良く演奏し尽くした シフの円熟が感じられ、速いテンポで自由に演奏され、それが自然な名演 となっています。
アリアは速めのテンポで弾いていきます。 ピアノらしい響きを活かした爽やかで艶やかな音色 、繰り返し部分での装飾も自由です。第1変奏も速めのテンポですっきりした演奏です。 速めのテンポと弾むようなリズム感でとてもスリリング です。響きは綺麗ですが、内容も充実していています。自由な装飾で即興的な部分が強く出ていて、それもスリリングさを生み出しています。第2変奏は対位法の繊細な絡み合いがサラッと表現されていてスリリングです。このテンポ感でどんどん変奏が進んでいきます。バッハらしい格調とピアノの透明感のある響きが合わさって、 表面的には磨かれていて、内容は芳醇 です。他の演奏では聴けない魅力があると思います。第5変奏はかなり速いテンポでとてもスリリングです。聴き所もしっかり押さえていて飽きることがありません。
第10変奏はしっかりした演奏です。常に前に向かっていく演奏です。第13変奏などは とてもしなやかで、ピアノならではの流麗な演奏 です。ロマンティックな部分もさりげなく表現されていて表情豊かです。第29変奏などは 非常に技巧的な演奏で鮮やか です。第30変奏はとても迫力があります。
グールドに比べるととても表面はスタイリッシュな解釈ですが、内容が濃く長いゴルトベルグ変奏曲をあっという間に聴き終えてしまいます。 テンポはそこまで揺らしていないのにとても表情豊かで、曲に引き込む力も強い名盤 です。このレヴェルまで到達したシフの喜びが感じられるような名演です。
チェンバロ:アンドレアス・シュタイアー バロック奏法を活かした表情豊かな名盤シュタイアーのチェンバロによる演奏です。(アマゾンにはピアノとありますが、聴くとチェンバロですね。)チェンバロの響きはなかなかで、録音会場の残響もあり、心地よく聴けます。 バロック的な演奏スタイルで、特にタッチによる表現力が高く、アーティキュレーションのつけ方が上手い です。またとてもロマンティックな所があり、感情表現が上手く、味わい深い演奏です。チェンバロのストップなど、色々な手段を使って幅広い表現をしています。
冒頭のアリアは じっくり演奏され、とてもロマンティック です。数あるゴルトベルグ変奏曲のディスクの中でも、とても深みのある表現です。第1変奏は舞曲のリズムを活かして、 はっきりしたタッチでリズミカルに演奏 していて楽しめます。第4変奏は、少し遅めのテンポで余裕を持たせながら、対位法を立体的に響かせています。第5変奏は速いテンポでスリリングな演奏です。第9変奏は ゆっくりしたテンポでじっくり聴かせてくれます 。第10変奏はダイナミックさがあり、アーティキュレーションがしっかりした演奏で、 豊かなチェンバロの響き が聴けます。
表現の幅がとても広いですが、よく聴いてみると 奇を衒わずバロック的な奏法を使ったスタンダードといえる表現 だと思います。メリハリのあるテンポや繊細なタッチの変化、音色の変化で時にロマンティックに、時にダイナミックに、とチェンバロの表現力を最大限生かした名盤です。
ピアノ:ベアトリーチェ・ラナ 繊細さとリズム感、ピアノの良さを活かした豊かな表現若手ピアニストであるベアトリーチェ・ラナの演奏です。 繊細で感性の豊かな演奏で、各曲の特徴を活かして、ロマン派的な繊細な感情表現 をしています。ピアノの音色を活かした新鮮な演奏で、なるほどピアノでゴルトベルク変奏曲を演奏するには、こんな表現が合うんだな、と感じます。舞曲などもリズミカルで、自由に感性で弾いていますが、バロックの知識もある程度あるように思います。新しい録音で、音質も良いです。
冒頭のアリアは とても繊細な演奏で、清潔感があります 。控えめで自然体ですがロマンティックな表現です。その後、テンポの速い舞曲では、かなり速いテンポでリズミカルに弾いていて楽しめます。 メリハリが良くついていて、ピアノならではの強弱を活かした表現 です。ピアノの良さを活かしながらも、装飾やリズムもバロック風です。 表現は幅広いですが、バッハの音楽を超えることはありません 。それでいて、全く飽きずに聴ける多彩な表現をしています。
分かり易く聴きやすい演奏であると共に、独特の清潔感溢れる音色で、バッハの音楽を最大限に活かしています。ピアノでの演奏だと、ロマンティックになりすぎることも多いですが、ベアトリーチェ・ラナの演奏は 絶妙なバランスを取っていて、バッハの音楽が元々もっている感情表現を表現している 、と思います。
チェンバロ:リチャード・エガー 優美で華やか、響きの良さと味わいのある名盤リチャード・エガーは、古楽界で目覚ましく活躍しており、ヘンデルの合奏協奏曲作品6の名盤を指揮していたりもします。チェンバロ演奏でも最近の時代考証を元にした装飾などを積極的につけ、 優美で華やかな響きで、ゴルトベルグ変奏曲のイメージ通りの演奏 です。残響が多く良い楽器を使っているため、音色も暖かく癒し系の演奏ですね。
冒頭のアリアはじっくり弾き込んで、優美なチェンバロの音色を良く聴かせてくれます。 基本的に明るく暖かみがあります 。またトリルなど装飾も自然で、アリアだけ聴いても最近のしっかりした奏法をベースにしていることが良く分かります。 かなり感情も入っていて、味わいも深い です。
続く変奏も各曲をそれぞれの様式に従ってその上で表情を付けています。ダイナミックな所もあり、自分の表現もしています。 やはりベースがしっかりしているので、どの曲もしっくりくる演奏 です。特に舞曲などは、その舞曲の特徴が良く出ていて楽しめます。
チェンバロはかなりダイナミックな響きが出る楽器を使っていて、強弱もしっかり出ているため、聴いていて飽きるということはないと思います。高度な対位法が良く使われていますが、 テンポも少し速めなので鮮やかで密度が濃いです 。ただ、そういった曲の難しさは表に出さず、あくまで暖かみのある演奏になっています。
最後まで飽きずに味わい深く聴くことができる名盤で、初めてチェンバロでの演奏を聴く人、あるいは最初の一枚としてもお薦めです。
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト (1976年) レオンハルト最後の録音、何度も聴くほど良さが分かるグスタフ・レオンハルトの3回目の録音です。ブランシュの複製を使った演奏です。このチェンバロの音色はとても明るいです。レオンハルトは特に癒し系の演奏をしている訳では無く、 粒の立ったしっかりしたタッチ で、舞曲などもリズミカルです。
アリアは遅めのテンポで、優雅に聴こえますが、 タッチはしっかりしています 。装飾も必要最小限で、つけるべき装飾はつけていますが、晩年の巨匠に相応しい余分な音を一切省いた、書道家の筆のような演奏です。様々な舞曲は、それぞれのキャラクターを活かして弾き分けています。グレン・グールドのような大胆さもありますが、 バロックの舞曲にはもともと相応しい演奏の仕方がある ので、それを良く知っているレオンハルトは様式を上手く活かして演奏しています。
この明るめの音のチェンバロは、最初は味わいが少な目に聴こえますが、じっくり聴いていくうちに良さが分かってきます。
グスタフ・レオンハルト (1964年) チェンバロ奏者のパイオニア、レオンハルトの演奏グスタフ・レオンハルトの2回目の録音です。どうも、録音データがはっきり残っていないようで、1964年頃録音とあります。 演奏はとても素晴らしく、癒される演奏 です。楽器のほうはまだクラシック・チェンバロを完全に復元できているか微妙な時代です。1976年の録音のほうが伸びのある良い音に聴こえます。演奏スタイルは、既にほぼ完成している雰囲気ですね。
チェンバロ:ピエール・アンタイ (1992年) さわやかな響き、クラシカル・チェンバロでの新しい演奏1702-4年ベルリン ミヒャエル・ミートケ製に基づく 1985年アムステルダム ブルース・ケネディ製チェンバロ使用
ピエール・アンタイは、レオンハルトの弟子です。クラシカル・チェンバロで、 クオリティの高い正統派の演奏 です。この時期からクラシカル・チェンバロは非常に良くなりました。このチェンバロの音色は低音域がしっかり響くものです。あるいは教会で録音したのかも知れません。
表現は洗練されたもので、レオンハルトを受け継いだチェンバリストの一人であることがよく分かります。 さらに表現を発展させていて、今聴いても洗練された演奏に聴こえます。 表現の幅も大きく、クラシカルとはいえダイナミックさもあり、リヒターを思い出します。しっかりした演奏で、雅さはあまり感じられず、 クールで爽やかな響きで、自然体の演奏 です。この曲の良さが自然に引き出されています。
チェンバロ:キース・ジャレット (1989年) 元ジャズピアニストのクラシカル・チェンバロ演奏キース・ジャレットは元々ジャズ・ピアニストでした。そんな演奏家がクラシックに転向して、しかも弾き方も大分違うクラシカル・チェンバロで演奏しています。
チェンバロを誰に習ったのかはよく分かりませんでした。鍵盤を上げて音を止める、というのをしていない感じです。チェンバロにはペダル機構はないので、全部手でやらねばならず、リズミカルな所は間を空けると効果的です。たまに切っている時もある気はします。いずれにせよ、既にクラシカル・チェンバロによる名演奏は沢山あった時期ですが、特別なチェンバロの師匠が居なくて、センスだけで弾いているのであれば、逆に凄いことですね。
元ジャズでその後クラシックでも色々な曲を弾いていて、 表現のヴォキャブラリーが豊富なのは間違いない です。また、 宗教的というよりは少し違うある種の幸福感がこの曲にはありますが、それが良く表に出ています。 聴いていて共感できる部分が多いですし、峻厳さがないので、親しみやすい演奏です。恐らく、バッハ自身も宗教的な峻厳さを求めた作品ではないと思うので、表現の方向性はとても共感できます。
ピアノ:カール・リヒター (1970年) 堅固で真面目なモダンチェンバロの力強い演奏カール・リヒターのモダン・チェンバロを使った演奏です。
第1曲のアリアは飾り気のない演奏で、装飾も少なく、なめらかさがあります。第2曲はかなりダイナミックで、クラシカル・チェンバロでは出せない音ですね。 モダン・チェンバロは音量が大きく、しっかりした作りなので、ダイナミックな表現が出来ます 。なので、プーランクのチェンバロ協奏曲など、金管楽器やパーカッションがいるオーケストラでソロを務められます。
聴いていくと割と舞曲なども滑らかな演奏で、音に切れ目がありません。これもモダン・チェンバロ独特で、クラシカル・チェンバロでは、音を切ること(アーティキュレート)がとても大事にされています。シュタイアー盤を聴くとよく分かります。曲によっては パイプオルガンのような峻厳な響き を聴くことが出来ます。こういったスケールの大きなフーガは良い演奏です。また、弱音器を多用していて、かなり強弱を出そうとしているように思います。
いかにも 大聖堂でパイプオルガンを聴いているようなスケールがあり 、それがこの演奏の特徴だと思います。
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楽譜・スコア
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