INUWASIのプロデューサー5000日無休「元旦に牛丼しか食べられなかった」
田端 いいですよね。ライブアイドルという層の中で、Zepp DiverCity(TOKYO)クラスの会場でワンマンを成功できるグループって、1000組いて10〜20組いるかどうかです。ZeppDCを借りることが出来ればライブ自体はできますが、ちゃんとお客さんが入って、しっかり埋めるとなると難しいこと。INUWASIは、ファンの皆様のおかげもあって、そのハードルをクリアできたので、ある程度の成功は収められたんじゃないかなと思っています。なので、(ある程度の成功を達成した)アイドルの運営として考えると、デビュー初期のスタイルや楽曲をブラッシュアップして挑戦的なことも、していっていいんじゃないかって思えたんです。
田端 バンドセット自体は、2023年2月のリキッドルーム公演で“最初で最後のバンドセット”と銘打ってやったことが始まりです。あの時は“ワンマンの特別なコンセプト”として、生演奏・生音に挑戦する意味合いで、あえてそう宣言しました。でも1年も経たないうちに、やっぱり葛藤が出てきて、「将来的に国内ではアイドルファン層以外のシーン、それと世界で勝負していくとなると、バンドセットを封じてしまうことでチャンスを自分たちから減らしているんじゃないか?」って気付いたんです。フェスのような大きな舞台を目指しているのに、自らアイドルとバンドを区切って活動範囲を狭めるのはもったいないなって。
純子 確かに。最近はバンドありきのフェスも多いですし、そこからさらなる活躍の場が広がる可能性は大きいですよね。
田端 そうなんです。ちょうどその頃、世界で活躍するバンドのCrystal Lakeと接点を持つ機会があって、「やっぱり“どこでも勝負できる”のは、バンドを含めた一体感あるライブを作れるグループなんだな」と実感しました。だから“最初で最後”を覆して、もう一度バンドセットをやろうと決めました。
純子 なるほど。田端さんって、脳内で一本筋の通った“設計図”があって、それに基づいて動くからブレないですね。だから間違いなく成功にたどり着くんだろうなって思います。実際にグループのメンバーもバンドメンバーさんもめちゃくちゃ楽しそうですし、ここまでバンドセットがハマるアイドルグループはなかなかいないと思います。
反ボイトレ、反プロデューサー!ファッション肩書きに抗う二人の流儀
純子 確かに! 私の場合、「ボイトレ」って言葉も「ボイトレ受けて自撮りしましたイェーイ」みたいなツイートも好きじゃなくて。1回ボイトレが終われば全部が終わり、みたいな軽いイメージがついてしまっている気がするんです。でも実際はそうじゃない。教員免許などの資格を持って指導している私としては、レッスンはその場で完結するものではなくて、持ち帰って自分に落とし込み、積み重ねて初めて意味が生まれるものやと信じているので、「それをボイトレなんて4文字でまとめるなよ!」って常々思ってます。
純子 そうそう。レッスンで伝えられるのは「鼻から息を吸う」「足を上げて体を動かす」「この振りがあるときは顔を上げずに下げる」みたいなポイントであって、それを繰り返し練習して、自分のものにできるかどうかは本人次第です。私は筋トレ以上にカロリーを消費しながらいつも指導していますが、最終的に成長するかしないかはその子の受け取り方とアウトプットにかかっていますし、その指導が活きるかどうかは運営さんとの関係性にも左右されます。
田端 僕の場合は、わざわざそう名乗る必要がないからっていう理由ですね。もちろん会社の代表だし、曲や衣装、アーティスト写真、来年に向けての計画や年間のプロモーションプランなど、総合的に全部自分で決めているので、一般的にはプロデューサーと呼ばれる立場だと思います。でも、それって仕事として当たり前のことで、あえて「プロデューサー」という肩書きを名乗る意味が自分にはよくわからない。
純子 ほんまですね。言われるまで気づかなかったです。でもこの連載では、自分が共感しつつも、「この人には負けたわ」って思う人たちをゲストに招いているのですが、田端さんは特に“負け”を感じる人なんですよね。というのも、私も大概のワーカホリック側の人間なのですが、田端さんってご自身の会社(株式会社MAPLE。田端一聖が代表を務め、アイドルグループのマネジメント、プロデュースを行う)を立ち上げてから休みがゼロという噂を聞きまして。
田端 正確に言うと4700日か4800日くらいです。
純子 ほぼ5000じゃないですか!私も年間2500件ほどレッスンしてますけど、やっぱり休む日はありますし、上には上がいるんやなぁと痛感しました。
純子 楽しいから、というのはもちろんありますけど、泳ぎ続けていないと気が済まないタイプです。
田端 僕はどちらでもなくて、“義務”ですね。
純子 短いのに刺さる言葉……。
田端 メンバーが第一ですが、もちろん社員もいるので、社長として抱えているものがある以上やることは尽きません。だから「休みたい」と思うこともあまりないです。ただ元旦くらいは早く帰りたいな、とは思いますけど…。
純子:逆にそこだけ!?
田端:元旦に夜まで仕事して、帰りにスーパーに寄ろうと思ったらもう閉まっていて。ほかのお店も全部終わってて、コンビニに寄ったらお弁当コーナーにラスイチで残っていた牛丼しかなかったんです。その時はさすがに悲しかったので、翌年からは少し早く帰ろうと思いました(笑)。
「数字を持っていないと不遇な扱いを受ける」非情な現実へのリベンジとグループへの愛
田端 世間やシーンに対して、ある意味リベンジかなと思います。
田端 はい。僕はプロデュース業を始めて13年目くらいになるんですけど、長くやってると知り合いの事務所や関係者が増えていきますが、悲しいことにグループの規模や売れ行きによって大きく態度が変わってしまう方もいるんですよね。当たり前かもですが。
純子 それ、めちゃめちゃわかります。
田端 コロナ禍のある時、出演グループの欠員が出たという理由から当時格上のグループが揃うイベントからお誘いがあって、「ここが良いチャンスになれたら」と期待して出演を決めたのですが、いざ出演してみると楽屋がなくて、廊下に長机がひとつあるだけ。さらには顔見知りの運営さんたちがいたので挨拶をしたら「珍しいところで会うね」と言われました。過去自分が運営していたグループで、当時軌道に乗っていた頃はすごく仲良くしてくれた人たちが、一瞬で掌を返すんですよね。数字を持っていないとどういう扱いをされるかがはっきりとわかった瞬間でした。
田端 こうした思いを積み重ねてきたのもあって、これまでの方針から全部変えてやろうって思ったんですよね。2021年にリリースした『DUTY』というファーストフルアルバムがあって、その制作を前年の冬から始めたのですが、そこでグループのイメージを刷新しようと動き始めました。収録曲の「Axenxion」とかは、まさに当時の気持ちを反映して作って貰った楽曲です。タイトル自体も“次元上昇”っていう意味合いだし、歌詞にはかなりメッセージが込められていますね。
純子 衣装が黒から白ベースになったのも、その一環ですか?
田端 まさにそうです。
純子 なるほど。田端さんの思いをはじめて聞きましたが、私も声楽をやっている理由はリベンジなので、すごくしっくりきました。
田端 これまで不本意な形でグループが終わることが多かった分、INUWASIはそうはならないように意識して、スタートから運営を続けています。なるべくメンバーチェンジもないようにしたいし、何より彼女たちが気持ちよく仕事ができる、頑張ることができる環境作りを大切にしていきたいです。自分の人生より大切にしてきたので。
目指すのはロッキンと武道館
田端 正直、ZeppDCのワンマンも開催できて、日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)でのライブもできて、そして夢だったメジャーデビューを果たして、僕自身が目標としていたところは達成できたんですよね。だから、24年冬のツアー前、このグループのために自分がこの先何ができるかわからなくて悩んだ時期もあったんですけど、あるメンバーから「Zeppツアーがやりたい」って話を受けて、そこは自分でも叶えてあげられるんじゃないかなって思いました。
田端 はい。なので今年12月からの「INUWASI BAND SET 東名阪LIVE TOUR 2025-2026〝狗鷲戦閃〟」のチケットを、全てソールドさせることが、直近の目標です。あとは、レーベルの強みを活かして海外進出はもちろん、メンバーたっての希望であるフェス出演を目指したいです。バンドセットでやっているからこそ出られる場もあると思いますし、“アイドル枠”ではなく“バンド枠・アーティスト枠”で勝負したいし、勝負出来るようになりたいです。
純子 私の教え子でいうとKolokolはアイドル枠で出演しましたが、INUWASIはそこの枠ではないやろなと私も思います。ほんとうに、バンドセットの強みですね。
田端 そうですね。演奏もほかのバンドに負けないと思います。そしていずれ〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉に出たいです。
田端 そうだと嬉しいですね。繰り返し口に出していると叶うことって自分の経験上結構多いので、なるべく言うようにしてます。
純子:TIFにも変わらず出演しようとは思っているんですか?
田端 僕の理想としては、1日はTIFに出つつ、ほかの日もオファーが来たら「すみません、その日、ロッキンに出るので」って言いたい。
純子 めっちゃいいですね!
田端 TIFって出たくても出られない、アイドル界で言ったら最高峰の場所ですからね。INUWASIもなかなか出られず、過去「オンラインだったら……」というお話をいただいたのですが「来年メインを張れるグループにしますね」と言ってお断りしました。そして翌年、本当にメインステージの争奪戦に進みました。
純子 そこでもちゃんとリベンジしてますね。教え子のKolokolも同じくあと一歩のところでメインステージ出演を逃したことがあるので、その悔しさはよくわかります。その1年後、彼女たちはメインステージへの出演が決まったので、あの子らもよく頑張ったなと思います。
田端 もちろんファンの方々がついてきてくれたから叶ったことなのですが、僕としては“なるべくしてなった”と思っています。目標に掲げていたTIFのメインステージをTIF初出演から2年目でクリアしたというのも、狙いに行って有言実行したわけですから。
純子 やっぱりINUWASIって“やってやるぜ”というマインドが運営、メンバーともに強いグループですね。
田端 あとは大きな目標で言えば、ありがちですけどやっぱり武道館でライブはしてみたいですね。日本国旗を掲げた神聖な聖地で、必然的にライブができるINUWASIになっていけたらなと思います。
音楽メディアにてライター/インタビュアーとしての経験を経た後、現在はフリーランスで執筆活動を行う。坂本龍一『2020S』公式記事の執筆や書籍『シューゲイザー・ディスクガイドrevised edition』への寄稿の他、Real SoundをはじめとしたWebメディアでの執筆、海外アーティストの国内盤CD解説などを担当。
声楽家、教員。大阪音楽大学音楽学部声楽科卒業。 音楽科一種教員免許取得。学生より学外コンクールへ精力的に参加しKOBE国際学生音楽コンクール初入賞。その後中国音楽コンクール銀賞、サンテレビ賞、中国国際音楽コンクール国際部門1位(杭州にて)他多数。安藝榮子、R・ハニーサッカー、中川牧三に師事。主に宗教声楽・現代音楽・オペラからアニメ・ゲーム音楽まで取り扱うジャンルは多彩で、個性的な見た目とは相反する実直で技巧的、的確な表現方式を得意とする。 演奏活動に加え多種多様な後進の歌唱指導にも力を入れアーティスト、タレント、俳優、アイドル、YouTuber、TikToker、2.5次元ミュージカル俳優等の育成輩出、プロモーションに携わる。 ファーストサマーウイカ、おじゃす、矯正ちゃん、Kolokol、Axelight、AVAM、サクヤコノハナ、Quubi、yosugala(汐見まとい)、INUWASI、PRSMIN、Merry BAD TUNE.、YOLOZ、ありぃくん(uijin・作詞家・プロデューサー)、ゆりにゃ(TikToker、YouTuber)等多数指導。 大阪を拠点とし全国へ出張を重ね声楽をベースとした様々なジャンルの歌唱指導へ柔軟に対応しながら個性を伸ばすレッスンを展開している。