ザ・ビートルズ『アンソロジー』究極の復活──歴史的背景、新ミックス、秘蔵音源を徹底解説
そして『Anthology 4』の収録曲を頭から順に聴いていくと、噂通り初期〜中期にかけての音源がかなりグッとくる。ディスク1の冒頭を飾る2曲は、2013年にiTunes Storeでリリースされた『The Beatles Bootleg Recordings 1963』から。「I Saw Her Standing There (Take 2)」で聴けるポールの声は、採用されたテイク1と比べると声が気持ちいがらっぽく、よりブルージーに聞こえる。「Money (That’s What I Want) (RM7 undubbed)」はピアノ抜きのバージョンで、初期ならではの粗野さ、パンク感が生々しい。前述した『バック・ビート』のサントラでアフガン・ウィッグスのグレッグ・デュリが歌っていたバージョンにも負けないガレージ感だ。ビートルズの原点を伝えるこれら2曲でアルバムを始める構成は、“つかみ”として成功している。
ここからは今回が初公開となる未発表曲を見ていこう。「Tell Me Why (Takes 4 and 5)」はギターバンドでありながらハーモニーにも力を入れていた時期の彼らが、スタジオで試行錯誤している様子を伝えてくれる初々しい記録。モータウン勢を含むアメリカのガールグループが得意としたスタイルを、ギターサウンドに置換するという“金脈”をすっかりものにした64年2月の録音だ。まだ自分のパートを覚え切れていない様子のジョージに、ジョンが教えてやる声をマイクが拾っているのが面白い。いいところで笑いを我慢できなくなって台無しになる「If I Fell (Take 11)」も、スタジオでの彼らの姿が目に見えるよう。これこそ、楽曲が完成するまでの過程を誰でも盗み聴きできる『Anthology』シリーズの醍醐味と言える。「Matchbox (Take 1)」はリンゴの歌い方が、OKテイク以上の素直さでカール・パーキンスの唱法をなぞっているように聞こえてかわいい。「Every Little Thing (Takes 6 and 7)」は集中力の高さを感じさせる演奏だが、テイク6の途中でポールがゲップ。うまく行きそうなテイク7も結局笑って終わる。
「I Need You (Take 1)」は、この曲の代名詞であるエレキのボリューム奏法(ただし、ちょっとだけタイミングが合っていない)をジョージがオーバーダブする前で、アコースティックギターが核になっているシンプルな演奏が新鮮。個人的にはOKテイクより気に入った。同じく『Help!』(65年)に収められた曲、「I’ve Just Seen A Face (Take 3)」はカントリー&ウエスタンの影響がモロに出た疾走感溢れる演奏が痛快で、早すぎたカントリー・ロックとも言えまいか。クラシックギターと12弦アコースティックギターの組み合わせが実にいい感じだが、ポールはまだ細かいアレンジまで詰めていないようだ。
「In My Life (Take 1)」は、歌い出しから「I'll Remember」の部分がOKテイクと異なり、「Remember」に妙な抑揚をつけた符割りで歌っている。しかし次の「not for better」の部分ではOKテイクと同じようにフラットに歌っているから不思議。恐らく後者に合わせた方がスムーズで良いという判断から、変えることにしたのだろう。また、ブリッジの「Some are dead and some are living」の箇所は、リリースされたバージョンでは最後のコードのBから次のDmへと移る箇所が、ここではD→Dmになっている。これはこれでありがちな常套手段だが、もっとメリハリを強調する必要を感じ、DをBに変えたくなったのだと思う。ただテイクを重ねるのではなく、最適のコードを得るまで妥協せずに“変え続ける”姿勢から、彼らの粘り強さが見えてくる。同じく「Nowhere Man (First version – Take 2)」も歌い出しの符割りに明らかな違いが。ファンが期待している通り『Rubber Soul』(65年)のデラックス・エディションがそろそろ出てくるとしたら、このようなテイク違いが山のように聴けるのでは……と期待せずにいられなくなる。
“LSD体験以降”、作風がガラッと変わってからの未発表曲は今回多くないが、どれもインパクト大だ。「Baby, You’re A Rich Man (Takes 11 and 12)」は短いテイク11の後、ジョンがマル・エヴァンズに「コークを持ってきて」と告げると、ポールが「カナビス(樹脂化した大麻)も」と危険な発言。コークはコカコーラだったと思いたい。テイク12の最後で聴けるジョンの巻き舌ボーカルはシラフだろうか。
「All You Need Is Love (Rehearsal for BBC broadcast)」は宇宙中継プログラム『OUR WORLD 〜われらの世界〜』の本番に備えたリハーサルで、ジョンの歌い方は肩慣らし程度に聞こえるが、リリースされたバージョンよりストリングスやホーンの音色が鮮明で生々しく、本作中でもドキッとさせられる音源だ。終盤には「こんなにファンキーに演奏してたっけな?」と感じるパートも顔を出す。
「The Fool On The Hill (Take 5)」は、ほぼアレンジが固まっている模様。このままインストゥルメンタル曲として成立しそうな精緻さに聴き惚れる。「I Am The Walrus (Take 19)」は、メンバーの演奏はオフになっており、オーバーダブしたストリングス、ブラス、クラリネットをじっくり聴ける。編曲したジョージ・マーティンもLSD体験をしたのでは?と、あらぬ疑いをかけたくなる極彩色の仕上がりで、改めてマーティンの音楽的な貢献が浮き彫りになる強烈なトラック。ボーカルはほとんど聞こえないが、ザ・ビートルズのサイケデリック・サイドに魅了された人なら通過不可、必聴の音源と言い切りたい。
「Hey Bulldog (Take 4)」はバックトラック中心でジョンのボーカルはほとんど聞こえない 。いかにもジョンらしい動きをするピアノ、ジョージのギターがむき出しの状態で聴ける。ジョンが叩き出すリズムとリンゴのドラムの相性が抜群で、のちに『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』(70年)でリンゴを起用するのが納得できるトラック、とも言えそうだ。
他のバンドがレコーディングでは数テイクでキメるよう要求されていた60年代に、王者ザ・ビートルズは延々と何テイクも録り直すことを許されていた。贅沢に時間を使ってスタジオ内で曲を練り上げていたことは、『Anthology Collection』をぶっ通しで聴けば実感できるはずだ。そうやって膨大な録音が残されたおかげで、我々は今でも彼らのキャラクターを身近に感じながら、未使用テイクの隅々まで楽しむことができる。このファビュラスなバンドがどうやって時を越える名曲群を残すことができたのか……魔法の秘密に触れたいと願い続けている人々にとって、『Anthology Collection』が最高の資料であることは疑いようがない。
ザ・ビートルズ『Anthology Collection』※12LP/8CDボックス・セット発売中再生・購入:https://umj.lnk.to/TheBeatles_Anthology © Apple Corps Ltd.jpeg
ザ・ビートルズ『Anthology 4』※2CD/3LP発売中再生・購入:https://umj.lnk.to/Anthology4 © Apple Corps Ltd.jpeg
『ザ・ビートルズ・アンソロジー』2025年11月26日(水)よりディズニープラス スターで独占配信開始 © 2025 Apple Corps Ltd. ‘The Beatles’ or other applicable mark is a registered trademark of Apple Corps Ltd. ‘Apple’ and the Apple Logo are exclusively licensed to Apple Corps Limited
PICK UPS
- Music Traveler 06 feat.岩田剛典 「旅の醍醐味はインプット」初のソロアジアツアーと思い出の旅
- Rolling Stone Japan / ツタロックフェス 採用情報 新規メンバーを募集します!詳細はバナーをクリック!