福島県富岡町にワイナリーが誕生。環境再生と地域の力で描く町の未来とは?
遠藤秀文さん(以下、遠藤) 私は富岡町で育ち、大学卒業後は建設コンサルタントとして世界24か国でODA(政府開発援助)などのインフラ整備や環境保全に携わってきました。実は就職活動の時、「35歳になったら故郷に恩返しをしよう」と決めていました。地域の振興のために尽力する父の姿を見ていたこともありますが、故郷を離れてみて夏の涼しさ、豊かな海や川、温かいコミュニティといった地域のポテンシャルの高さを初めて実感しました。
ソトコト ブドウ栽培やワイナリーオープンまでの道のりで、どのような課題がありましたか。
遠藤 ブドウ栽培において最も苦労したのは土作りでした。試験栽培を行った小浜栽培圃場では、樹齢100年近い杉林を何百本も伐採し、太い根っこを抜いて開墾しました。原発被災地域で初めて山を切り開いて畑を作るケースだったため、切った木材の受け入れ先を探すのにも苦労し、最終的には現場で木の皮を剥いでから製材所に持ち込むことで、自身が代表を務める建設コンサルタント会社の社屋の材料として活用することができました。
ソトコト ようやくたどり着いたワイナリーのオープンから半年が経過しましたが、振り返ってみていかがでしょうか。また、今後はどのように取り組んでいくのでしょうか。
遠藤 私は現在も本業である建設コンサルタントとして、ペルーのマチュピチュ遺跡保全プロジェクトなど、世界規模の課題にも取り組んでいます。実は、ワイナリーの構想を始めたのも、マチュピチュ保全の構想を始めたのも、ともに10年前。それが今年、同時に開花しました。海外で培った「現場の本質を見抜き、改善を繰り返す」という姿勢は、ワイナリー経営にも直結しています。
環境再生の鍵を握る「復興再生利用」とは
ソトコト 環境省が進めている環境再生事業の現状について、読者にわかりやすく教えてください。
折口直也さん(以下、折口) 福島県内の除染は概ね完了し、現在は帰還困難区域の除染を進めております。大熊町と双葉町に設置された中間貯蔵施設には、これまでに約1400万立方メートル、東京ドーム約11杯分の除去土壌が運び込まれました。
ソトコト この「復興再生利用」の重要性と安全性について解説していただけますか。
折口 中間貯蔵施設に保管されている1400万立方メートルもの土壌を対象に、放射能濃度が基準値を下回り、安全性が確認された土壌を公共事業などで有効活用する「復興再生利用」を進めています。最終処分の実現に向けて、復興再生利用が進んで最終処分をする量が少なくすることが鍵となります。土壌を安全性を大前提に資源として利用するという考えの元に、この取り組みを進めています。
ソトコト 環境再生事業を進めていくには、風評被害の払拭や国民への理解を高めていくことが必要となると思いますが、今後はどのように取り組みを進めていくのかを教えてください。
折口 風評被害の払拭のためには、科学的なデータだけでなく、実際に現場を見ていただくことが重要だと考えています。環境省では、中間貯蔵施設の定期的な見学会を開催しており、今年度よりも実施回数を増やして、来年度は毎週行うペースでの現地見学会を予定しています。ここには神社など地元のゆかりの場所なども含めて見学いただき、そこでの人々の思いを知ることで、除去土壌の課題を「自分事」としてとらえていただけるはずです。
津波、仮置き場、そしてブドウ畑へ。土地の歴史を未来へつなぐ
遠藤 環境省が除染を進める中で、駅前はかつて震災の瓦礫やフレコンバッグが並んでいた「仮置き場」でした。そのインフラ整備を活用するなど私たちは知恵を絞りながら取り組みを行った結果、今ここでブドウを育てることができています。
折口 そうですね。私が以前福島に赴任していた2018年頃は、まだ廃棄物や焼却施設が立ち並んでいて、その景色が記憶に残っています。それが今、こうして美しいブドウ畑に変わり、ワイナリーとして人々が集まる場所に生まれ変わっている姿に、本当に深い感銘を受けます。遠藤さんのような事業者の方々が、環境再生の「その先」にある魅力を創り出してくれることこそが、復興の真の姿だと感じます。
遠藤 これからは、「津波の被害」を受けて「仮置き場」となり、そして「ブドウ畑」に生まれ変わったという再生のストーリーだけでなく、「品質」で勝負するフェーズだと思っています。この土地ならではの潮風を感じるワインと地元の魚介類などのフードとのマリアージュを楽しんでもらい、感動を提供したいです。
折口 素晴らしいですね。環境省としても、単なる環境再生事業の周知に留まらず、浜通りの食や酒、そして遠藤さんのような熱い思いを持つ人々の魅力を発信することで、この地域の「ファン」を増やしていきたい。今後は、環境再生事業だけでなく、地域の魅力発信も強化していくつもりです。
遠藤 100年後、このブドウ畑が富岡の当たり前の景色になっていることを常に考えていますし、もちろん200年、300年と続いてほしい。年輪のようにしっかりと時を刻みながら深みを増していければと思っています。
折口 この場所に来て、実際に自身の目で見て、地域の変化を感じてもらうことが、何よりの理解につながると信じています。この町をはじめとする福島の歩みを私たちもしっかりと支え、共に歩んでいきたいです。
この記事が気に入ったら いいね または フォローしてね!