. 013『PRIVATE EYES』DARYL HALL & JOHN OATES(1981) - ROCK、POPの名盤アワー
013『PRIVATE EYES』DARYL HALL & JOHN OATES(1981) - ROCK、POPの名盤アワー
013『PRIVATE EYES』DARYL HALL & JOHN OATES(1981) - ROCK、POPの名盤アワー

#013『PRIVATE EYES』DARYL HALL & JOHN OATES(1981)

そんな日々を送っていた中学時代。ある日、ラジオから流れてきたのがホール&オーツの「Kiss on My List」だった。オッ、とすぐに耳が反応した。常にバックで叩かれるエレピのリズムと、独特のハーモニー、ダリル・ホールの声に一瞬にして魅せられた。のちに知ることになるが、彼らは「ブルー・アイド・ソウル」と呼ばれるほどブラック・テイスト溢れる音楽性で、そんな音楽的素養がまだない私はそれでもそのあたりの匂いを感じ取ったのだろう。痺れた。

1曲目は「Did it in a Minute」だった。好きな曲だったのでこれまた気持ちの針が振り切れる。私の前ではピンクの派手なジャケットを着たG.E.スミスが変な体の動きをしながら味なギターを弾いていた。その左横にジョン・オーツ、さらにその横にダリル・ホール。うしろにドラムのミッキー・カーリー、ベースのT. ボーン・ウォーカー、サックスのチャーリー・デ・シャント。そう、その後迎えるホール&オーツの全盛期を支えた不動のメンバーだ。

当然「Private eyes(パン 👏 )、Watching you(パンパン 👏👏 )」はやった。ハンド・クラッピンですね。中3の私が一番グッときたのはやはり「Wait for me」だった。イントロとアウトロのG.E.スミスのソロが聴かせた。相変わらず動きも表情も変だったが。

前作よりもよりポップ・ロック色が強いサウンド

「ブルー・アイド・ソウル」と呼ばれる彼らのサウンド。本作も随所にそれは感じられるのだが、前作『Voices』と比較すると、よりポップ・ロック色が前面に出ている。研ぎ澄まされていると言ってもいい。とそれは1曲目の「Private Eyes」が象徴する。エイト・ビートのタイトでシンプルなリズムにギターの強いリフがアクセントを作る。そこに「Kiss on My List」同様の「8分の1と4拍」目にエレピのアタックが入るという、もうこれぞホール&オーツ・サウンドの極みみたいな曲である。

と言いつつ、2曲目の「Looking for a Good Sign」はソウル・テイストたっぷり。彼らのルーツ・ミュージックへのオマージュとも取れるほど、コテコテのサウンドだ。ホーン・セクションと言い、バック・ボーカルと言い、これはもうブラック・ミュージックそのもの。加えてベース・ラインとシンプルなパーカッションのAメロが、なんてことないようでいて非常に味わい深いのだ。

そして当時の自分内で最も物議を醸し出したのが、「 I Can’t Go for That」だ。今でこそ超がつくほどの名作として聴き継がれているが、当時は驚きとともに静聴したものだ。

「 I Can’t Go for That」を超意訳すると、「そりゃ無理だ」という感じか。そしてこのタイトルにカッコつきで続く「no can do」という言葉だが、これは文法的には間違っている、と小林克也はベストヒットUSAで言っていた。そのくだりを引用抄訳すると、この「no can do」を使いはじめたのはアメリカへの中国移民だという。わかりやすい言葉を組み合わせたchinese english、ということらしい。そのニュアンスをダリルは取り入れたかったのだと。このあたりの話は面白い。異言語文化の人にはそこまでわからないし、なかなか知ることもない。

ちなみにこの曲は1982年1月最終週の「American Top 40」でNo.1を獲得しているのだが、同じ週にチャート・インしているのが「Waiting for a girl like you / Foreigner」(No.2)、「Centerfold / The J.geils band」(No.3)、「Physical / Olivia newton john」(No.4)、「Let’s groove / Earth,wind&fire」(No.8)と錚々たる面々、聴き継がれる名曲たちである。

A面4曲目はギターのハウリングからはじまるR&Bテイストの濃いロックンロール、「Mano a Mano」。ジョン・オーツがリード・ヴォーカル。そしてこの曲は本アルバムで唯一の、ジョン・オーツ一人による作詞曲のナンバーだ。

もう一曲、B-3の「Friday Let Me Down」もジョン・オーツのリード・ヴォーカル曲なのだが、こちらは曲はジョン・オーツで、詩は彼に加えてダリルと当時のダリルの恋人であるサラ・アレンがクレジットされている。そう「Sara smile」のサラだ。彼女は作詞家として彼らのアルバムに全面参加しており、本アルバムでも実に7曲にクレジットされている。もっとも彼女一人での作詞はなく、すべてダリルやジョンも共作者として併記されている。このあたりもホール&オーツの楽曲制作の面白いところだ。

そして気になるのがこの「Mano a Mano」という言葉だ。これはスペイン語である。英語で言うところの「Hand to Hand」、つまり「手と手」あるいはもっと意訳して「手と手を取り合って」というのが本来の意味。だが実際には「1対1」とか「直接対決」といった意味で使われることが多いと言う、慣用的に。ではそれを英語で言うとどうなるかと言うと、これが「One on One」なのである。次の彼らのアルバム『H2O』にこのタイトルの曲が入ってますね。大ヒットもした。面白い符号だ。もちろん彼らはそれを承知でそんなタイトルをつけてニヤリと微笑んでいたのだろうけど、これもまた異言語文化の人には見えてこないニュアンスと言える。

A面最後は「Did it in a Minute」。「Private Eyes」と同じく「8分の1と4拍」目にエレピのアタックが入る正調ホール&オーツのポップ・ロック。1982年のライブのオープニングを飾った曲だけに、実に軽快で乗せてくる。ダリル・ホールの立って弾くキーボード姿がカッコよかった。

B面後半の侘び寂びが染みる、そこに彼らの本領がある

B面最初はノリのいいストレートなロック「Head Above Water」。歌詞は海の恐怖と戦う船乗りの歌で、そのわりにはアップな曲調なので、決してシリアスな雰囲気は感じさせない。キラキラした印象。

B面のこの曲から3曲目までは、ドラムの音がかなり抜けているように聞こえる。それが1982年当時は鮮度の高い太鼓の処理方法だったのだろう。だが、このわずか2~3年後に、New YorkのPower Station Studioで生まれるドラムの音が世界を席巻した。いわゆる「Power Station Sound」と呼ばれるもので、さらに太鼓のアタック音を強めながら空間処理を施し、ほどほどのところで残響音をカットするというもので、もはやリズム楽器にとどまらない存在感を誇った。

ホール&オーツはこのスタジオでのレコーディングはないが、同時代のNew York Soundの一翼を担っていたのは間違いなく、方向性は一緒だったように思う。それがこのB面の3曲には現れはじめており、その極みは1984年発売のアルバム『Big Bam Boom』だろう。このアルバムか、『PRIVATE EYES』かで結構迷ったのだ、ここで取り上げる作品を。初期衝動ということが最後の決め手になったのだが、

次が「Tell Me What You Want」。アップ・テンポだがソウル色の強いロック。途中、ベース・ラインが中南米系のテイストを帯びる部分がいい。アレンジが初期のポリス風にも思える。とは言え、やはりホール&オーツのロックンソウルの曲である。

B面3曲目もまた気持ちが上がるテンポのロック「Friday Let Me Down」、ジョン・オーツのリード・トラックだ。だがタイトルをよく見ると、「金曜日は落ち込む」といった意味だ。普通の感覚だと金曜日は一番ハイになるはずなのだが。サウンドはCDのライナー・ノーツでも触れていたが、チープ・トリック風ではある。

「Unguarded Minute」は「ガードしていない瞬間」、訳詩では「うっかりしてる間に」とある。そしてそう歌ったあとにバック・コーラスが「watch out」と囁く。これは「Private Eyes」の「watching you, watching you, watching you」を受けているとも取れる。このあたりがアルバムとして聞いて「オッ」とほくそ笑むことができる部分であり、楽しいのだ。

そして次が「Your Imagination」。一聴すると「I Can’t Go for That」同様の初期テクノ風に感じられるのだが、それはシンセのメロディやベース・ラインが比較的単調にリフレインしていることからそんな印象を受けるのだ。

やたらクセのあるメンバーたちのことについても知っておきたい

本作から『Big Bam Boom』までの3枚のアルバムがこのバンド、パーマネントなメンバーで製作されており、これこそが音もキャラもDARYL HALL & JOHN OATESなのだと私は思っている。そのくらい濃く、強く、揺るぎなく、至高のメンバーであり、バンドなのだ。

ホール&オーツ再結成後もベースとして参加。後半生の仕事としては、ダリル・ホールがネット配信という形で2007年に開始した「Live from Daryl’s House」に主要メンバーとして顔を見せてくれたのが印象に残っている。

だが、T-Bone・ウォークは2010年2月28日、58歳という若さで心筋梗塞により亡くなってしまった。先の「Live from Daryl’s House」でも追悼プログラムが組まれた。

「Live from Daryl's House」でのDarylとT-Bone

また、T-Bone・ウォークとともに「Live from Daryl’s House」にもしばしば参加していた。再結成後のホール&オーツの活動にもメンバーとして名を連ねている。

  • アーティスト: ダリル・ホール&ジョン・オーツ
  • ソニーミュージックエンタテインメント
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