. 100m 200m 400m)における後半の速度低下を改善させたい人へ - 陸上競技の理論と実践~Sprint & Conditioning~
100m 200m 400m)における後半の速度低下を改善させたい人へ - 陸上競技の理論と実践~Sprint & Conditioning~
100m 200m 400m)における後半の速度低下を改善させたい人へ - 陸上競技の理論と実践~Sprint & Conditioning~

陸上短距離(100m 200m 400m)における後半の速度低下を改善させたい人へ

このように、100m走の疲労時(減速局面)では、足の接地位置がより前方になり、離地位置が体に近くなります。それとともに後ろに流れる脚を前へ引き戻す動作が遅れ、足関節の発揮するパワーが著しく低下します。膝はやや伸びたまま接地するようになり、俗に言われる身体が浮いた状態になります(遠藤ほか,2008;羽田ほか,2003)。そのため、100m走において速度低下を防ぐためには、 足首によるパワーの発揮、後ろに流れる脚を前に引き出す股関節屈曲筋力の持久性が重要 になる…と言うことが分かります。

また、平野ほか(2016)では、レース中の速度低下の非常に小さい日本国内トップ400m選手(自己記録45.81)と学生選手(10名:記録平均50.73±1.87)の400m走後半の動作や力発揮を比較しています。その結果、トップ選手は学生選手と比較して、接地中の足関節が発揮する力が約4倍、後ろに流れる脚を前に引き出す場面での股関節屈曲力は約2倍の値を示しています。

さらに、下肢の筋持久力だけでなく、腕を後ろから前へ振る筋持久力が高いほど、400m走後半の腿の引き上げ角度が維持できるといった報告(伊藤ほか,2000)もあります。腕振りは脚の運動を補助する役割があるため、上肢の筋持久力も速度低下を防ぐために重要です。

以上のことから、 短距離走においてスピードを維持する能力を高めるためには、これらに関連する筋肉の持久力を高めることが非常に重要になる と言えるでしょう。では、このような筋の持久力を高めるためにはどのようなことが必要になるのでしょうか?

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筋肉の持久力を高めるためには?

筋肉は、大きな力は発揮できるが持久力に乏しい 速筋 と、大きな力は出せないが持久力の高い 遅筋 で構成されています。速筋には酸素を運ぶための毛細血管が少なく、酸素を利用するためのミトコンドリアが少なくなっています。そのため、毛細血管やミトコンドリアの多い遅筋は赤く見え、逆に速筋は白く見えるのです。前者が赤筋、後者が白筋と呼ばれる所以でもあります。

また、速筋はさらに持久性のある速筋(Type Ⅱa)と持久性の低い速筋(Type Ⅱx,Type Ⅱb)に分かれます。

筋肉には、運動強度が低い時は遅筋が優先的に動員され、運動強度が高くなるにつれて徐々に速筋が使われていくという特徴があります。短距離走では最大スピードを出すような激しい運動なので、この速筋がメインに使われることになります。加えて、遅筋は発揮できる筋力に限界があり、筋肥大のポテンシャルも低いです。したがって、この 速筋の能力を改善させていくことが、短距離走のパフォーマンスを高めるのに非常に重要 だということが分かります。

※Egan & Zierath (2013)より

持久力も同様に、速筋の持久力を改善させていくことが必要です。短距離走に必要な持久力は、遅い速度を長く維持する持久力ではなく、高いスピードを維持する持久力だからです。遅い速度で何時間も走ることができるようになっても、高いスピードの持久力が上がるわけではありません(400m-800mなどでは遅筋という土台の能力が上がって、維持できるスピード向上に繋がる場合はあるでしょう)。

速筋はミトコンドリアと毛細血管が少ないため持久性が低いです。ならば、 速筋のミトコンドリアと毛細血管を増やすことができれば、必然的に高いスピードの持久力は高まります。 そして、この速筋のミトコンドリアや毛細血管を増やすには、

「高い乳酸値で、筋肉のグリコーゲンを多く使うようなトレーニング、エネルギー切れになって足が動かなくなるようなトレーニング」が重要 になります。

すなわち、「高い乳酸値で、筋肉のグリコーゲンを多く使うようなトレーニング」を陸上の短距離種目の練習に置き換えると、 「より高いスピードで徹底的に量をこなす」「息が上がるような状態で、距離をこなす」「レストを短くして、最後身体が動かなくなるように追い込む」 ことが重要だとわかります。

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筋肉内のエネルギー源も重要

短距離走の持久力を高めるうえで、もう一つ重要なことが、 筋肉内にエネルギー源を多く蓄えておくこと です。

クレアチンリン酸とは、筋肉内に蓄えられており、より多くのエネルギーを生み出すことができ、大きな力を発揮するために最も重要なエネルギー源です。しかし、筋肉内の貯蔵量は少なく、その持続時間は短いのが特徴です。これを分解してエネルギー源を生み出す過程をATP-CP系と呼びます。

グリコーゲンも筋肉内(と肝臓)に蓄えられており、クレアチンリン酸には劣りますが、比較的エネルギーの供給スピードは高いため、大きな力発揮に重要なエネルギー源です。しかし、筋が疲労してくるとグリコーゲン(糖)を分解することが難しくなってくるため、持続時間は短くなります。糖質を分解してエネルギー源を生み出す過程を解糖系と呼びます。

そのため、 短距離走のようなハイスピードを出す、または維持するためには、クレアチンリン酸やグリコーゲンをより多く使えるようにしておくことが重要 になります。

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筋肉のクレアチンリン酸を増やすには

クレアチンリン酸は クレアチンサプリメントを摂取することで筋肉内の貯蔵量を増やすことができます 。これによって出力や高い出力の持続力が改善されることは広く知られています(Peterほか,2018)。短距離種目だけでなく、投てき、跳躍、長距離種目にも有効なので摂取すべきでしょう。

トレーニング例

筋肉のグリコーゲンを増やす方法

グリコーゲンは筋肉に蓄えられている糖質のことで、 糖質を摂取することが貯蔵量を増やす方法 となります。しっかりと筋肉内のグリコーゲンを蓄えておくことで、筋の出力、及び持久性にも有利に働きます。高いスピードで走り、糖質をしっかりと分解し、乳酸値が高まるようなトレーニングを多く行うことで、筋のグリコーゲンは枯渇に近づきます。ここで糖質をしっかり補給しつつ回復を図ることで、筋内のグリコーゲンの貯蔵量を増やすことができます。また、筋内のミトコンドリアや毛細血管を増やす刺激にもなると考えられます。

トレーニング例(100m-200m)

トレーニング例(200m-400m)

このように、 筋内のエネルギー源をしっかりと使うトレーニングを実施し、食事やサプリメントで補給をすることを繰り返していく ことが、持久力の土台を作る上で欠かせないポイントであると言えます。さらにこれらのようなトレーニングを実施することで、速筋のミトコンドリアや毛細血管を増やすことも達成できます。

また、上記のようなトレーニングは必然的に高い出力も伴います。そのため、速く走るために欠かせないスピード向上にも貢献できると考えられ、一石二鳥です。スピードと持久力を完全に切り離して考えるのではなく、スピードを伴った持久力、もしくは持久力を伴ったスピードを改善させるという視点は重要でしょう。

股関節屈曲、足関節底屈の筋力・筋持久力を高めるトレーニング

短距離走の持久力を高めるためには下肢や上肢の筋持久力、特に 股関節屈曲や足関節底屈筋力の持久性が重要 であることは既に述べた通りです。そのためには、これまで述べてきたようなスプリントトレーニングを行うことが重要であることは言うまでもありません。

マシンヒップフレクション 動画のようなトータルヒップというマシンがあれば、それを用いてトレーニングができます。腿の前の筋肉よりも、脚の付け根部分から動かすことを意識しましょう。

バンドウエイトヒップフレクション マシンが無い場合は、図のような台の上にあおむけになり、片膝を挙げる運動を繰り返します。足首に重りを付けるなどして負荷を調節します。30回未満で限界になるように負荷をかけられれば、筋量増加にも十分な効果が見込めます。

ハードルサイドステップ

アンクルホップ

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まとめ

・高いスピードの持久力には、下肢や上肢の筋持久力が重要。特に接地中に足首が発揮するの力、腿を後ろから前に引き出す股関節屈筋群の筋持久力が重要になる。

・筋の持久力を高めるためには速筋のミトコンドリアや毛細血管を増やすこと、クレアチンリン酸やグリコーゲンなどの筋肉内のエネルギー源を充実させることが大切。

・そのためには短い休息を挟みつつ、スプリントを繰り返してエネルギー切れを起こすトレーニングや、全力に近いペース、高い乳酸値を保って200m、400mなどの距離を多くこなすような刺激に加え、クレアチンサプリメント、食事による糖質の補給が重要となる。

参考文献

・阿江通良ほか "世界一流スプリンターの 100 m レースパターンの分析―男子を中心に―. 世界一流競技者の技術." 第 3 回世界陸上選手権大会バイオメカニクス班報告書. 日本陸上競技連盟強化本部バイオメカニクス班編. ベースボールマガジン社: 東京 (1994): 14-28.

・松尾彰文ほか. "男女 100m レースのスピード変化 (特集 世界陸上アスリートのパフォーマンス--東京大会から 16 年後の大阪大会)." バイオメカニクス研究 12.2 (2008): 74-83.

・遠藤俊典ほか. "100 m 走後半の速度低下に対する下肢関節のキネティクス的要因の影響." 体育学研究 53.2 (2008): 477-490.

・羽田雄一ほか. "100m 走における疾走スピードと下肢関節のキネティクスの変化." バイオメカニクス研究 7.3 (2003): 193-205.

・持田尚・杉田正明(2010)2007世界陸上競技選手権大阪大会における決勝400 m 走レースのバイオメカニクス分析.日本陸上競技連盟バイオメカニクス研究班編,第11回世界陸上競技選手権大会日本陸上競技連盟バイオメカニクス研究班報告書世界一流陸上競技者のパフォーマンスと技術.財団法人日本陸上競技連盟東京,pp. 51-75.

・Sprague, Paul, and Ralph V. Mann. "The effects of muscular fatigue on the kinetics of sprint running." Research quarterly for exercise and sport 54.1 (1983): 60-66.

・安井年文ほか. "400m 走の前・後半における疾走動作の相違について." 陸上競技研究 32 (1998): 15-24.

・平野達也ほか. "400m 走後半の支持期における下肢関節のキネティクス的特徴." 陸上競技研究 2016.1 (2016): 26-35.

・伊藤新太郎ほか. "400m 走における上肢の役割." 陸上競技研究 40 (2000): 8-15.

・Egan, B., & Zierath, J. R. (2013). Exercise metabolism and the molecular regulation of skeletal muscle adaptation. Cell metabolism, 17(2), 162-184.

・Peterほか.Evidence-Based Supplements for the Enhancement of Athletic Performance.International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism.28 (2):178-187.

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