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企業分析「第一三共」投資家・就職希望者向け(2025年3月期)

第一三共の売上収益は近年拡大傾向にあります。直近の実績として、2023年度の売上収益は1兆6,016億8,800万円でした。2024年度の予想では、これが1兆8,862億5,600万円に増加する見込みであり、前年度比で17.8%の大幅な増加となります。この増加は、主に円安による増収効果に加え、リクシアナ®やエンハーツ®といったグローバル主力製品の売上が好調に推移していることによるものです。医療用医薬品事業が売上収益の大部分(2024年度予想で95.3%)を占めています。

過去数年間の売上収益の推移は、2020年度 1兆4,014億円、2021年度 1兆6,000億円、2022年度 1兆5,335億円、2023年度 1兆6,017億円となっており、全体として成長傾向が見られます。

セグメント別(領域別・地域別)の業績分析
  • 日本:5,999億7,700万円
  • 米国:4,926億1,400万円
  • 欧州:3,108億4,200万円
  • その他:1,982億5,300万円
  • 連結合計:1兆6,016億8,800万円
  • エンハーツ®(日本): 310億円
  • エンハーツ®(米国): 3,020億円
  • エンハーツ®(欧州): 1,496億円
  • エンハーツ®(ASCA:アジア、中南米): 703億円

海外売上比率は近年増加傾向にあり、2020年度 41.7%、2021年度 46.6%、2022年度 58.3%、2023年度 62.5%となっています。これはグローバルな事業展開を加速している結果と言えます。

製品別では、抗凝固剤のリクシアナ®や、抗悪性腫瘍剤のエンハーツ®(抗HER2抗体薬物複合体)などが主力製品として売上に貢献しています。特にエンハーツ®は前中間連結会計期間比で49.6%増と大きく成長しています。リクシアナ®は収益性の高い安定した利益を生み出す製品であり、得られた収益は3ADCやそれに次ぐ成長ドライバーへの投資源泉と位置づけられています。タリージェ®、Nilemdo®などの新製品も、適応追加等を通じた早期拡大を目指し、がん以外の新薬事業での持続的成長を牽引する予定です。

収益性分析

第一三共の収益性を示す指標として、コア営業利益率やROE(自己資本利益率)があります。コア営業利益率は、2020年度 28.9%、2021年度 19.2%、2022年度 29.9%、2023年度 35.0%と推移しており、増加傾向にあります。第5期中期経営計画期間中(2021~2025年度)、研究開発費控除前コア営業利益率は40%の目標達成を目指しています。製品構成の変化や効率的な経費支出により原価率の改善を見込んでいます。

ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は、2023年度実績が12.8%でした。2024年度は17.9%に上昇する予想です。中期経営計画では、エンハーツ®の成長による収益拡大と機動的な自己株式取得を通じて資本効率を拡大し、2024年度は11%台後半、2025年度は16%以上を目指しています。

財務健全性分析

財務健全性を示す指標として、自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)があります。自己資本比率は、2023年度末で48.8%でした。これは、米国メルク社との戦略的提携により受領した契約時一時金のうち、将来売上収益として計上する額を繰延収益(負債)に計上していることから、一時的に低下しているものです。第一三共は、財務の安全性と資本効率の観点から、自己資本比率は60%前後が適切な水準と考えており、今後、繰延収益を売上収益として計上することで、段階的に60%前後に収まることを想定しています。

株主還元

第一三共は、バランスのとれた成長投資と株主還元を方針としています。

配当については、安定配当と利益成長に応じた増配を目指しています。過去の1株当たり年間配当金は、2023年度 50円 /株 (2023年4月1日から2024年3月31日まで) 、2024年度 60円 /株 (2024年4月1日から2025年3月31日まで) と推移しています。 2025年度 (2025年4月1日から2026年3月31日まで)の1株当たり年間配当予想は、 78円/株です。

2023年度の配当金総額は959億円でした。2024年度は1,129億円を予想しています。株主資本配当率(DOE)を指標として採用しており、資本効率の向上と株主還元の充実を図ることにより、目標の8%以上を上回る8.5%以上を見込んでいます。DOEはROEと配当性向を掛け合わせた指標であり、企業価値向上に重要な要素を含んでいます。

第一三共の会社概要

基本情報(沿革、合併経緯など)

第一三共は、三共株式会社と第一製薬株式会社が2007年に経営統合して誕生しました。

経営理念・ビジョン パーパス(存在意義)

世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」ことを掲げています。これは製薬企業の存在意義であり、医薬品の創出を通じて多様な医療ニーズに応え、患者さんやそのご家族に貢献することを目指しています。

2030年ビジョン

ESG経営のもと、「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」となることを目指しています。このビジョンの実現に向けて、企業の強みである「サイエンス&テクノロジー」に基づき、イノベーティブなソリューション提供に挑戦し続けるとしています。

事業領域の全体像

第一三共の主力事業は、医療用医薬品の研究・開発・製造・販売です。売上収益の構成比率では、医療用医薬品が全体の95.3%を占めています(2025年3月期)。

  • がん領域: ADC(抗体薬物複合体)などの最新技術を活用した新薬開発に強みを持っています。エンハーツやTURALIOなどが製品例として挙げられます。がん事業は持続的な成長に向けた投資対象として重要視されています。
  • 循環器領域: 高血圧治療薬や抗血栓薬などで実績があります。リクシアナなどが該当し、収益性の高い安定した利益を生み出す製品として、がん領域や次なる成長ドライバーへの投資源泉と位置付けられています。
  • その他: 消化器、代謝性疾患、中枢神経系などの領域にも取り組んでいます。タリージェ、Nilemdo、ビムパット、ミネブロなどがこれらの領域の製品に含まれます。

医療用医薬品以外では、ヘルスケア事業も展開しており、売上収益の4.6%を占めています。第一三共ヘルスケア株式会社が、店舗販売や通販事業を中心に利益成長を目指しています。ロキソニンシリーズなどが含まれます。ワクチン事業ジェネリック医薬品事業にも取り組んでおり、幅広い患者さんのニーズに対応することを目指しています。グループ会社であるAmerican Regentは、インジェクタファーやジェネリック注射剤を中心に利益成長を目指しています。

事業内容と強み:世界と戦う創薬力

主力事業領域の深掘り

第一三共の主力事業は医療用医薬品の研究・開発・製造・販売です。

特に注力している領域は、がん領域です。ここでは、抗がん剤、分子標的薬、そして特に**抗体薬物複合体(ADC)**などの最新技術を活用した新薬開発を進めています。

その他に、循環器領域、消化器、代謝性疾患、中枢神経系などの領域にも取り組んでいます。

がん領域

第一三共の研究開発における最大の強みは、独自の抗体薬物複合体(ADC)技術にあります。この技術は、抗体医薬と薬物を適切なリンカーを介して結合させ、抗体医薬を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高める薬剤を生み出すものです。第一三共は、独自の薬物とリンカーを抗体に結合させたDXd ADC技術を開発しました。

ADC技術の優位性としては、高い薬物抗体比(DAR)、安定なリンカー、血中半減期の短いペイロード、腫瘍選択的に切断されるリンカー、バイスタンダー抗腫瘍効果などが挙げられます。DXd ADCにおける作用機序は従来の標的療法より複雑であり、標的の発現だけでなく作用機序における重要なステップに着目することで、有効性予測の成功率が高まる可能性があると考えています。

現在、当社のADC技術を活用した主要な開発パイプラインとして、5つのDXd ADC(エンハーツ、ダトロウェイ、HER3-DXd、I-DXd、DS-6000)があります。ペイロード自体は同じですが、標的抗原や薬物の平均結合数(DAR)が異なります。

エンハーツ

「エンハーツ」(トラスツズマブ デルクステカン、T-DXd)は抗HER2 ADCであり、グローバル市場で成功している代表的な新薬です。2024年3月期には4,492億円の売上を計上し、業績を大きく牽引しています。HER2陽性固形がんやHER2低発現の乳がんなどを対象とした承認取得や臨床試験の進捗が報告されています。エンハーツの開発はアストラゼネカと共同で行っています。エンハーツに係るアストラゼネカ社とのプロフィット・シェアの増加が費用増の要因となっています。

ダトロウェイ

ダトロウェイ®(ダトポタマブ デルクステカン、Dato-DXd)**は抗TROP2 ADCであり、アストラゼネカと共同開発しています。

パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd)

パトリツマブ デルクステカン(HER3-DXd)**は抗HER3 ADCであり、米国メルクと共同開発・共同販促を通じて価値最大化を目指しています。

イフィナタマブ デルクステカン(I-DXd、DS-7300)

イフィナタマブ デルクステカン(I-DXd、DS-7300)**は抗B7-H3 ADCであり、米国メルクと共同開発しています。進展型小細胞肺がんを対象としたフェーズ3試験を開始するなど、開発が進捗しており、3ADCに次ぐ成長ドライバーとして位置づけられています。厚生労働省から小細胞肺がんに対する希少疾病用医薬品の指定を獲得しました。

DS-6000(R-DXd) ワクチン事業 その他の領域(循環器、疼痛など)

循環器領域は第一三共の主要な領域の一つであり、高血圧治療薬や抗血栓薬などで多くの実績を持っています。

製品としては、抗血栓薬であるリクシアナ®が挙げられます。リクシアナは収益性の高い、安定した利益を生み出す製品であり、がん事業および次なる成長ドライバーへの投資源泉となっています。用法及び用量の追加による製品価値向上も行われています。

その他に、消化器、代謝性疾患、中枢神経系領域にも注力しています。新製品としてタリージェ®、Nilemdo®/Nustendi®、Venofer® などがあり、これらの製品の適応症の追加などによる早期拡大を通じてがん以外の新薬事業でも持続的な成長を目指しています。また、プラリアやビームパーツも重要な製品です。

研究開発体制

第一三共は研究開発に積極投資を行う企業として知られています。

研究開発費の規模は国内トップクラスであり、2025年度までの5年間で研究開発費に約1兆9,500億円を配分する方針です。これは、中期経営計画策定時点の見込から4,500億円増額されており、特に5DXd ADCsの研究開発投資の増加によるものです。2024年度と2025年度合計の研究開発費は約1兆円を見込んでいます。

国内外の研究拠点としては、世界最先端の技術を取り込むため、米国ボストンエリアおよび欧州圏に研究拠点を設立し、グローバルR&Dネットワーク(日本、米国、ヨーロッパ、東アジア)を展開しています。テクノロジーユニットは日本、アメリカ、ドイツ、中国、ブラジルの5地域で活動しています。

オープンイノベーションの取り組みとして、上記の研究拠点の設立を通じたイノベーションハブ構想を推進し、外部とのパートナーシップやリソースを活用しています。また、AI・データサイエンスを活用したAI創薬プラットフォームの開発や、リアルワールドデータ(RWD)を活用した臨床試験の最適化など、DX推進による創薬のスピードと成功率向上を目指しています。

グローバル展開

第一三共は、日本国内のみならず、欧米やアジアをはじめとした世界各地で医薬品事業を行うグローバル企業です。海外に現地法人を多数設立し、北米、欧州、アジア地域での販売網を拡大しており、海外売上比率も大きく、グローバルファーマとして存在感を高めています。

海外売上高比率については、ソースの一つに日本国内約63%、北米約17%、欧州約10%、その他10%という概況値が示されています。主要地域としては、北米、欧州、アジアが挙げられます。

海外での販売・開発体制は、グローバル管理体制の下、ユニット別に事業を展開しています。例えば、がん領域事業は第一三共Inc.(米国)と第一三共ヨーロッパのがん領域事業で構成されています。米国のAmerican Regentは鉄欠乏性貧血治療剤やジェネリック注射剤等を扱っています。欧州はがん製品を除くスペシャルティビジネスを展開しています。ASCA(アジア、中南米)ビジネスユニットもあります。

提携戦略はグローバル展開において非常に重要です。ADC製品のグローバル展開を加速するため、 アストラゼネカ(エンハーツ、Dato-DXd) および 米国メルク(HER3-DXd、I-DXd、DS-6000) と戦略的提携を締結し、共同開発および共同販促を通じて製品価値の最大化を図っています。特に米国メルクとの提携は、彼らが持つ販売拠点を活用することで、販売国・地域を拡大させ、「より早く、より多くの患者さんにイノベーティブな薬をお届けする」ことを可能にします。取締役会でもこの戦略的提携は中長期的な成長のための重要な選択として議論・後押しされました。

市場環境と競合分析

製薬業界全体の動向

新薬開発の高コスト化 が進んでおり、いかに効率的にR&Dを推進するかが重要課題となっています。

この課題に対応するため、第一三共を含む企業は、AI・DX活用による新薬開発の最適化 を目指しています。また、世界最先端の技術を積極的に取り込むために、米国ボストンエリアや欧州圏に研究拠点を設立し、外部とのパートナーシップやリソースを活用する「イノベーションハブ構想」を推進しています。

薬価制度の影響 も事業に影響を与える可能性があり、薬価基準の改定や医療制度、健康保険に関する行政施策による悪影響のリスクが指摘されています。企業はこれを踏まえ、適切な販売条件の設定や各国の医薬品価格政策のモニタリングを行っています。

主要領域の市場規模、成長性、競争環境

医療用医薬品 が第一三共の主力事業であり、研究・開発・製造・販売を行っています。

特に注力している領域として、がん領域 が挙げられます。ここでは、抗がん剤、分子標的薬、**ADC(抗体薬物複合体)**などの最新技術を活用した新薬開発を進めています。エンハーツやTURALIOといった製品がこの領域に含まれます。がん事業は持続的な成長に向けた重要な投資対象と位置付けられています。この領域では、ロシュやアステラス製薬といった企業が競争相手として挙げられます。アストラゼネカとはエンハーツの共同開発を行っています。

循環器領域 も主要な領域であり、高血圧治療薬や抗血栓薬などで実績があります。リクシアナなどが含まれ、収益性の高い安定した利益を生み出す製品として、がん領域や次なる成長ドライバーへの投資源泉となっています。

医療用医薬品以外では、ヘルスケア事業ワクチン事業ジェネリック医薬品事業 も展開しています。

国内外の主要な競合企業との比較 海外(メガファーマ) メルク(米国) アストラゼネカ(英)

第一三共とエンハーツの共同開発を行っている企業です。

国内製薬メーカー大手5社 武田薬品工業 アステラス製薬 中外製薬 大塚ホールディングス エーザイ 第一三共の強み・弱み(競合との比較において) 強み

ADC技術を核とした革新的ながん治療薬の開発力(エンハーツを中心に国際的に高く評価)、日本発の革新的な創薬技術グローバル企業との連携を活かした成長戦略、売上規模に比して積極的な研究開発投資、研究者の自由な発想と意見交換を重視する独自の研究開発文化国内市場での強固な基盤(医療用医薬品売上シェアトップクラス、MR評価No.1)、日本、米国、欧州、東アジアを結ぶグローバルR&Dネットワーク。研究開発の成果がビジネス成果に結びついている点が強みとされています。

弱み

がん領域以外の成長戦略の確立が必要な点。海外市場、特に米国・欧州でのメガファーマとの競争が熾烈な点。

SWOT分析

強み (Strengths) ADC技術力とパイプライン

DESTINY臨床開発計画により、8件のBreakthrough Therapy Designation (BTD)、6件のNew England Journal of Medicine (NEJM) 掲載、19件のNCCN推奨を獲得しています。

研究開発力とイノベーション

DXd ADCに次ぐ成長ドライバーとしてI-DXd、DS-6000を位置づけ、DS-9606(抗CLDN6 ADC)のようなポストDXd ADCモダリティの研究開発も進めています。

がん領域でのグローバルな成長 財務状況(直近) 人材と企業文化

One DS Cultureとして「Be Inclusive & Embrace Diversity(多様性の受容)」「Collaborate & Trust(協働と信頼)」「Develop & Grow(成長し続ける)」の3つのCore Behaviorsを浸透させています。

ESG経営の推進 弱み (Weaknesses) がん領域への依存

がん領域に強みを持つ一方で、他の治療分野での成長戦略の確立や収益源の多角化が必要です。

パテントクリフの影響 研究開発コストの増大 特定の製品課題

Dato-DXdの開発戦略変更による売上収益減少が見込まれています。また、 Dato-DXd における 薬剤関連間質性肺疾患(ILD) の可能性も認識されています。

製造・供給体制 国内組織の課題 機会 (Opportunities) ADCの適応症拡大 早期治療ラインへの進出

ENHERTUをHER2陽性乳がんのより早期の治療ライン(ネオアジュバント、アジュバント、初回治療など)に進めるための試験が進められています。Dato-DXdも1L TNBCや1L NSCLCでの開発が進んでいます。

新規ターゲット・モダリティ 併用療法 地理的拡大 AI・DXの活用 M&A・パートナーシップ アンメットメディカルニーズへの対応 人材の強化と活用 脅威 (Threats) 市場競争の激化

世界の大手製薬企業(メガファーマ)を含む熾烈な市場競争が存在します。特に米国・欧州市場での競争は激しいと認識されています。既存主力製品も市場競争激化リスクに晒されています。

法規制・医療費抑制策 研究開発の失敗 製品に関する問題 製造・供給の不安定化

自然災害、感染症、地政学的リスクなどにより、サプライチェーンの維持・安定が困難になる可能性があります。気候変動もサプライチェーン寸断やコスト上昇のリスクとなり得ます。

コンプライアンス違反 ITセキュリティリスク 外部環境変動

リスク要因

事業運営上のリスク 研究開発の失敗および提携に関するリスク: 外部環境リスク 法規制、医療費抑制策等の行政動向に関するリスク 市場競争に関するリスク

まとめ

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